こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
委託給食会社で働いていると、避けて通れないのが事業所異動です。私自身、16年の間に何度も現場が変わりましたし、今は複数の事業所を掛け持ちで担当しています。そして異動のたびに思うのは、「同じ会社なのに、別の職場に転職したみたいだ」ということです。
会社のマニュアルは同じ。制服も同じ。日報の様式も同じ。それでも、厨房に一歩入れば、器具の場所も、献立の癖も、施設の人との距離感も、全部違います。異動を「左遷」や「逃げ」と思っている人もいますが、私は異動こそ、この仕事で一番成長できる機会だと思っています。
今日は、事業所が変わると何が変わるのか、そして異動の前に確認しておく10のことを、チェックリストの形で書きます。異動が決まった人、異動を打診されて迷っている人に向けて。
※事例は複数の現場の経験をもとにした架空の一例です。異動の制度や頻度は会社によって異なります。
委託給食に異動があるのは、なぜか
委託給食会社は、施設と契約して厨房を運営しています。契約が増えれば新しい現場に人が要り、人が辞めれば穴を埋める人が要る。だから異動は「会社が悪い」のではなく、この業態の仕組みです。求人票に「転勤の可能性あり」「複数事業所を担当」と書いてあるのはそのためで、会社を選ぶときに異動範囲を見ておく大切さは会社の選び方の記事にも書きました。
そしてもう1つ。異動は「人間関係のリセット」ができる数少ない手段でもあります。辞めたいと思ったとき、仕事そのものが嫌なのか、その現場が合わないのかを分ける。合わないだけなら、異動で解決することがあります。この話は辞めたいときの記事で書いたとおりです。
現場が変わると、何が変わるのか
私が異動や掛け持ちで実感した「違い」を、大きいものから並べます。
- 厨房の広さと器具……スチコンが2台ある現場と、1台しかない現場。回転釜があるか、ブラストチラーがあるか。器具が違えば段取りが根本から変わります。前の現場の「いつものやり方」が通用しません
- 食数と食事形態の割合……同じ100食でも、常食が8割の現場と、きざみ・ソフトが半分を占める現場では、仕込みの重さが倍違います。特別養護老人ホームと有料老人ホームでは、この割合がまったく違います
- 施設との距離感……厨房が食堂のすぐ隣で介護職員と毎日顔を合わせる現場と、地下の厨房からエレベーターで配膳する現場。前者は連携が密な代わりに要望も多く、後者は自由な代わりに情報が遅れます
- 献立の癖……同じ会社の献立でも、施設ごとに「この施設は麺が人気」「ここは魚を減らしてほしいと言われている」といった調整が積み重なっています。その癖は、紙のどこにも書いていません
- 人……これが一番大きい。パートさんの平均年齢、勤続年数、リーダー格の人の性格。厨房の空気は人で決まります
つまり、異動先で通用するのは「衛生の基本」と「数字の読み方」だけで、それ以外は全部、現地で覚え直しです。ここを最初から分かっていると、異動のショックがだいぶ小さくなります。
異動前に確認する10のこと
ここからが本題です。異動が決まったら、初日までにこの10個を確認しておくと、最初の1週間が楽になります。
【現場のこと】
- ①食数と食事形態の内訳……常食・きざみ・ソフト・ペーストがそれぞれ何人か。これで仕込みの重さが読めます。形態の作り分けは食事形態の記事を
- ②厨房の器具一覧……スチコンの台数、回転釜、炊飯器、洗浄機の種類。可能なら異動前に一度見学させてもらう。器具の名前と役割は調理器具図鑑の記事に
- ③提供時刻と配膳の方法……朝昼夕の提供時刻、食堂配膳か各階配膳か、トレイかお膳か。ここで1日の逆算が全部決まります
- ④納品業者と納品時刻……どの業者が何曜日の何時に来るか。検収の段取りと発注の締切に直結します。発注の基本は発注と食数管理の記事に
- ⑤その施設だけのルール……行事食の頻度、施設からの要望の履歴、アレルギーや禁止食材の人数。「口伝え」になっているものを、前任者から聞き出します
【人のこと】
- ⑥スタッフの人数とシフト……パートさんが何人で、早番遅番がどう回っているか。自分がどの時間帯に入るのか。人間関係の入り方は厨房の人間関係の記事に書きました
- ⑦施設側の窓口……管理栄養士、介護のリーダー、施設長。誰に何を相談するのか。多職種との役割分担は多職種連携の記事に
- ⑧前任者の引き継ぎ期間……重なる期間が1週間あるのか、1日なのか、ゼロなのか。ゼロなら、③④⑤を紙で残してもらうよう頼みます
【自分のこと】
- ⑨通勤と勤務時間の変化……早番の開始時刻が30分早くなるだけで、生活は変わります。通勤経路の変更は会社への届け出も忘れずに
- ⑩自分の「持っていく強み」……前の現場で身につけたことを1つ決める。揚げ物の段取りでも、日報の書き方でも。「教わる側」に徹しつつ、1つだけ持ち込むものがあると、現場に受け入れられやすくなります
異動初日〜1週間で、私がやっていること
- 初日は「動線を覚える」だけ……冷蔵庫、調味料、器具、洗い場。どこに何があるかを体で覚える。料理はまだ手を出さない
- 「前の現場では」と言わない……これは鉄則です。比べられるのが一番嫌われます。改善案があっても、1か月は胸にしまう
- 日報を最初から自分で書く……数字を自分で書くと、その現場の食数の波、仕入れの癖、原価の傾向が最短で頭に入ります。詳しくは日報の記事に
- トラブルのときの連絡先を紙に書いて貼る……納品が来ない、器具が壊れた、そのとき誰に電話するか。異動直後はこれが分からなくて固まります。トラブル対応の記事の「3秒で報告」は、報告先が分かっていて初めて成り立ちます
掛け持ち担当になったら
複数の事業所を担当するようになると、さらに1つ、大事なことが増えます。「現場ごとに頭を切り替える仕組み」です。
私は事業所ごとにノートを1冊ずつ分けています。食数、業者、施設の窓口、その現場だけのルール。行く前にそのノートを5分読んでから厨房に入る。これだけで、「あれ、ここはどっちの現場のやり方だったか」という混乱がなくなります。頭の中で混ぜないことが、掛け持ちのコツです。
1日の流れそのものは委託社員の1日の記事に書いていますが、掛け持ちになると、この「1日」が事業所の数だけ違う形で存在することになります。
まとめ
- 委託給食の異動は業態の仕組み。同時に、人間関係をリセットできる数少ない手段でもある
- 現場が変わると器具・食数と形態・施設との距離・献立の癖・人が全部変わる。通用するのは衛生の基本と数字の読み方だけ
- 異動前に10のことを確認する。現場のこと5つ、人のこと3つ、自分のこと2つ
- 初日は動線だけ。「前の現場では」と言わない。日報を自分で書く
- 掛け持ちは事業所ごとにノートを分ける
異動を何度か経験すると、「どの現場でも通用する自分の芯」が見えてきます。それが分かったとき、この仕事は一段面白くなります。異動が決まって不安な人は、まず①から順に、前任者に聞くところから始めてみてください。


