大量調理のコツ|100食を効率よく仕上げる段取り術【給食歴16年が解説】

調理スキル

こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。

「100食なんて、本当に時間内に作れるの?」

家庭料理の経験しかない方からすると、3桁の食数は想像がつきませんよね。でも給食の現場では、数人のチームで毎日100〜200食を、決まった時間どおりに仕上げています。その秘密は、特別な料理の腕ではなく「段取り」です。

この記事では、高齢者施設の給食を16年作ってきた私が、大量調理の段取りを分単位の時間割・人数・道具・よくある失敗・新人とベテランの差まで、まとめて書きます。この記事を読めば、100食の厨房で何が起きているかが一通り分かるはずです。

※時間割・人数・失敗の事例は、施設や会社によって大きく変わります。この記事の数字や事例は架空の一例です。

この記事でわかること

  • 100食を効率よく仕上げる大量調理の基本原則
  • 分単位の時間割と、人の動かし方の一例
  • よくある失敗の立て直し方と、段取りのルール

安心してください|給食の現場は「マニュアル化」されています

これから業界に入ろうとしている方に、まず伝えたいことがあります。「料理の世界は職人気質で、見て覚えろ、盗んで学べ、という怖い雰囲気なのでは」という心配は、給食の現場ではほとんどいりません。

給食委託会社の現場は、むしろ逆です。献立は1か月前に決まり、レシピは1食あたりのグラム数まで書かれ、作業手順書があり、加熱の温度と時間も数字で決まっています。盛り付けの量や配膳の手順も決まっています。

つまり、手順どおりに作業すれば、誰がやっても同じ味・同じ品質になるように設計されているのです。「料理が苦手で不安」という方こそ、型どおりにやれば確実にできるこの仕事は向いていると思います。

大量調理の基本原則3つ

原則①「逆算」で動く

「12時に提供 → 11時15分に盛り付け開始 → 11時に最終加熱と中心温度の確認…」と、ゴールから逆算して動きます。家庭料理は「できたら出す」で構いませんが、給食は提供時間が分単位で決まっているので、逆算が絶対条件です。

私が新人さんに必ず伝えているのは「時計を2つ持つ」ということです。ひとつは壁の時計、もうひとつは頭の中の「あと何分」。壁の時計を見て「まだ11時か」と思うのではなく、「提供まであと60分。ということは、今この作業が終わっていないといけない」と考える。この切り替えができると、動きが一気に変わります。

もうひとつのコツが「放っておける作業を先に始める」ことです。煮る・蒸す・炊く・冷ますは、火にかけてしまえば人の手が空きます。だから時間のかかるものから先に始めるのが鉄則です。逆に、和え物や盛り付けのような「人が付きっきり」の作業を先にやってしまうと、後半で必ず詰まります。迷ったら「これは放っておけるか?」で判断してください。

原則②「同時並行」が当たり前

家庭料理は1品作ってから次の1品(直列)。大量調理は4〜6品を同時に進めます(並列)。回転釜で汁物を煮ている間に、スチコンで魚を焼き、作業台では和え物の準備と盛り付けの段取りを進める。これを2〜3人で回すので、頭の中は常に「次はこれ、その次はあれ」です。

原則③「冷めても困らない順番」で作る

温かいまま出したいもの(焼き物・揚げ物)は最後に仕上げ、冷めても問題ないもの(煮物・和え物)は先に仕上げます。ここを間違えると、揚げ物がしんなりし、煮物が煮詰まりすぎる、という結果になります。煮物は冷める間に味がしみるので、むしろ先に作ったほうがおいしくなります。

100食・昼食の時間割【分単位の一例】

献立を「ごはん・焼き魚・煮物・和え物・汁物」として、昼食100食(常食のほか、きざみ・ミキサーなどの形態食を含む)を出す日の流れを、分単位で並べてみます。早番2人が朝食のあとそのまま昼食に入り、10時から遅番が合流する形です。

  • 前日の夕方……献立と食数の確認。冷凍の魚を冷蔵庫に移して解凍。乾物(ひじき・切り干しなど)の量を計っておく
  • 8:30……朝食の片付けが終わったら、昼の段取りの確認(5分)。誰が何を、何時までに終わらせるかを口に出して決める
  • 8:40……米を計量しておく。炊き上がりを11時半に合わせるため、研ぐのは10時
  • 8:50……野菜の下処理。煮物の根菜を切り、和え物の青菜を洗う。切るものは「火にかける順」に
  • 9:30……回転釜で煮物を開始。煮え始めたら火を弱め、ここからは釜に付きっきりにならない
  • 9:50……和え物の青菜をゆでて、冷却機で一気に冷やす。冷却の時刻を記録
  • 10:00……遅番が合流。汁物の担当を渡し、だしを取り始める。同時に米を研いで浸水
  • 10:30……スチコンを予熱し、魚を天板に並べる。形態食用のきざみ・ミキサーの準備を同時に
  • 10:45……炊飯スタート。煮物の味を決めて火を止め、余熱で味をしみさせる
  • 11:00……魚を焼き始める。焼き上がりで中心温度を測り、記録
  • 11:15……検食と保存食の取り分け。盛り付け開始。アレルギー・形態食の札を確認しながら、別の人が読み上げる
  • 11:30……ごはんが炊き上がり、ほぐしてから盛り付け。汁物は最後に温め直して、提供直前によそう
  • 11:50……配膳車に積み、数を確認
  • 12:00……提供。並行して洗い物と、夕食の下処理が始まる

ポイントは、8時台に「火にかける作業」と「放っておける作業」を始めてしまうことです。9時半に煮物を火にかけておけば、10時から11時の1時間は、汁物・魚・形態食に人を回せます。逆に、煮物を10時半に始めると、11時台に釜の前から人が離れられず、盛り付けが遅れます。

ごはんの量や炊き方は大量炊飯の記事に、早番・遅番の時間帯は早番・遅番の記事に、工程全体の流れは1食ができるまでの記事にまとめています。

100食を何人で回すのか

「100食を何人で作るのか」は、よく聞かれる質問です。調べてみると、調理員の人数に全国共通の基準はなく、施設の規模・食事の形態・厨房の設備・調理方式によってかなり違います。厚生労働省の研究班の調査には、入所100床と短期入所25床の施設で、調理員9人が2交替で回している例が載っていました。

一例として、1日に厨房に立つのが早番2人・遅番2人前後に、パートさんが2〜3人という形で考えてみてください(架空の一例です)。人数より大事なのは、次の2つです。

  • 経験者を同じ時間帯に固めない……ベテランが早番に集まると、遅番の時間帯に判断できる人がいなくなる
  • 「盛り付けの時間帯」に一番人を厚くする……11時15分から12時は、検食・盛り付け・形態食・アレルギー確認が重なる、1日でいちばん手が足りない時間

もうひとつの段取り=「人の動かし方」

段取りというと作業の順番の話だと思われがちですが、複数人で回す現場では「人の配置」も段取りのうちです。私が気をつけているのは3つです。

  • 指示は「作業名」ではなく「終わってほしい時間」とセットで出す……「人参切っておいて」ではなく「10時までに人参の乱切りをお願いします」。締め切りが分かると、人は自分で段取りを組めるようになります
  • 手が空きそうな人を先に見つける……私は数分に一度、厨房全体を見渡すようにしています。手が空いている人がいたら、それは段取りのミスが私の側にあるということです
  • 「今どこ?」を声に出して共有する……「主菜、あと5分で上がります」「汁物、味決まりました」。この一言があるだけで、まわりが自分のペースを調整できます。黙って進めるのがいちばん危ない、というのは失敗から学びました

特に大事なのがパートさんへの頼み方です。現場を長く支えてきたのはパートさんで、社員だからといって上から言っても現場は回りません。「お願いします」と「ありがとうございます」を切らさない人が、結局いちばん現場を動かせます。

大量調理で毎日使う道具

スチコン・回転釜・立体炊飯器・冷却機といった大きな機械は調理器具図鑑で紹介しました。ここでは、目立たないけれどこれがないと100食が回らない小さな道具を挙げます。

  • ホテルパン……ステンレスの四角いバット。スチコンにも冷蔵庫にも配膳車にもそのまま入る。仕込み・加熱・保管・運搬を全部これで回す
  • デジタルスケール……大きい物用(kg単位)と小さい物用(g単位)の2台。調味料も「目分量」ではなく計る
  • キッチンタイマー……1人で2〜3個。釜・スチコン・炊飯で別々に鳴らす。頭で覚えていると、必ずどれか忘れる
  • 中心温度計……加熱の合否を決める道具。扱い方と確かめ方は温度計の記事に
  • 大きなスパテラ(へら)とレードル(お玉)……回転釜を底から返す長いへら。盛り付け用のレードルは、1杯で決まった量がすくえるものを使う
  • 盛り付け用の計量スプーン・ディッシャー……1人分の量をそろえるため。最初の10皿を量って、残りの量で調整する

よくある失敗と、立て直し方(架空の一例)

失敗1:汁物が最後の10人分足りなくなる

煮詰まって水分が飛んだり、1杯の量が多めになったりすると、最後に足りなくなります。立て直しは、残りの人数を数えてから、残りの量を割ってよそうこと。足りない分をお湯で薄めると味が変わるので、だしと調味料を同じ割合で足します。防ぐには、最初の10杯を量ってレードルの1杯を決めておくことです。

失敗2:ごはんが固い、またはやわらかい

水加減の計り間違いや、浸水時間が短いことが原因です。固い場合は、提供までに時間があれば少量の水をふって蒸らし直します。どうにもならないときは、形態食用の軟飯やお粥に回せる分は回して、常食分を炊き直します。このために、炊飯は提供の30分前には炊き上がるように組んでおきます。

失敗3:提供15分前に、主菜がまだ焼き上がらない

スチコンに一度に詰めすぎると、火の通りが遅くなります。中心温度が75℃に届かないまま出すことは絶対にできないので、天板を2回に分けて、先に焼けた分から盛り付けに回すのが立て直し方です。盛り付けの担当を1人増やして、ほかの工程を先に進めておきます。

3つとも、原因は「始めるのが遅い」か「量を計っていない」かのどちらかです。失敗したときの報告の仕方はトラブル対応の記事に書いています。

新人とベテランで差が出る5つのところ

同じ作業をしていても、経験で差が出るところがあります。どれも才能ではなく、慣れで身につくものです。

  • 手が空いたときに、次の作業を自分で探せるか……新人さんは「次は何をしますか」と聞く。ベテランは、洗い物を片付けるか、次の仕込みに手をつけている
  • 火にかけたまま、その場を離れられるか……釜の前に立ち続けるのではなく、タイマーをかけて別の作業に移れる
  • 片付けながら作れるか……使い終わった道具をその場で洗って戻す。作業台が散らからないので、次の作業がすぐ始められる
  • 時計を「あと何分」で読めるか……今が何時かではなく、提供まであと何分かで動ける
  • 声に出せるか……「あと5分で上がります」「味見お願いします」を自然に言える

新人さんがつまずきやすいのは、家庭料理の「1品ずつ集中」が体に染みついていて並行作業に頭が追いつかないこと、時間の感覚がずれること、忙しそうな先輩に質問できないことです。最初は1〜2品の担当に絞ってもらい、慣れたら増やしていけば大丈夫です。「今聞いてもいいですか?」の一言は、ためらわずに言ってください。現場の先輩は、質問されるのが普通だと思っています。

私が決めている段取りのルール

  • 当日の自分を助けるのは、前日の自分……解凍・乾物の計量・前日にできる下ゆでは、前日のうちに済ませる
  • 朝の5分で、全員の「何時までに何を」を決める……この5分を省くと、11時台に必ず誰かが手持ちぶさたになり、誰かが詰まる
  • 放っておける作業から始める……煮る・炊く・冷ますを先に
  • 計る……水・調味料・1人分の量。目分量で100倍すると、ずれも100倍になる
  • 黙って進めない……今どこまで進んでいるかを、声に出して共有する

正直、最初の半年から1年は段取りに苦労します。私自身もそうでした。でも、毎日繰り返すうちに「この時間にこの作業」が体に染みつき、同時並行が当たり前になります。給食の現場で身につく段取り力は、家事や旅行の準備など、生活のいろいろな場面でも役に立ちます。

大量調理を本気で学ぶなら「調理師免許」

私が働きながら独学で取った調理師免許の勉強では、大量調理の考え方も体系的に学べました。食材の重さが加熱でどれくらい減るか、大量調理ならではの温度管理、集団給食の調理理論、HACCPに基づく衛生管理などです。実務経験2年以上で受験資格があるので、現場で働きながら目指せます。

まとめ|大量調理は「腕」より「段取り」

  • 給食の現場はマニュアル化されていて、「見て覚えろ」の世界ではない
  • 基本は逆算・同時並行・冷めても困らない順番の3原則
  • 100食の昼食は、8時台に火にかける作業を始めるかどうかで決まる
  • 人数は施設によるが、盛り付けの時間帯に人を厚くするのがコツ
  • 小さな道具(ホテルパン・スケール・タイマー・温度計)が段取りを支える
  • 失敗の原因は「始めるのが遅い」か「計っていない」がほとんど
  • 新人とベテランの差は、才能ではなく慣れ

家庭料理が苦手な方でも、段取りを意識すれば、100食は作れるようになります。これから飛び込む方も、今現場で頑張っている方も、ぜひ「段取り」を意識して仕事を見直してみてください。

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