夏の給食が「食中毒との戦い」なら、冬の給食は「感染症との戦い」と「体を温める工夫」の両立です。
高齢者施設の給食を委託会社の社員として16年やってきたボク(キッチンのりちゃん)が、冬の現場で実際にやっていることをお話しします。※事例は架空の一例です。
冬いちばんの警戒対象はノロウイルス
冬の衛生管理で最も怖いのがノロウイルス。夏の食中毒菌とは性質が違うので、対策も変わります。
- 少量でも発症する……ごくわずかなウイルスでも感染するので、「ちょっとくらい」が通用しません
- アルコールが効きにくい……手指消毒だけに頼らず、石けんでの丁寧な手洗いが最大の武器
- 加熱は中心部までしっかり……特に二枚貝は中心温度85〜90℃で90秒以上が目安
- 調理従事者の健康管理……本人だけでなく家族の体調まで申告してもらいます
「お腹の調子が悪いかも」と思ったら、無理せず申告。これが一番の予防策です(やりがちな衛生ミス10選)。
冬メニューの工夫①:温かさを届ける
厨房で温かく仕上げても、食堂に届く頃には冷めている——冬はこの温度落ちとの勝負です。
- とろみをつける……あんかけ、シチュー、けんちん汁。とろみは冷めにくさに直結します
- 提供直前の仕上げ……汁物は最後に温度を上げてから配缶する
- 器を温める……冷たい器に盛ると一気に冷めるので、温冷配膳車の保温をフル活用(盛り付け・配膳のコツ)
冬メニューの工夫②:旬の食材で満足感を出す
冬は根菜と鍋物の季節。旬の食材は安くて美味しくて栄養も高い——原価的にもありがたい存在です。
- 大根・かぶ・里芋……煮物、味噌汁、ふろふき。じっくり煮ると甘みが出ます
- 白菜・ねぎ……鍋風の献立に。加熱するとやわらかく、高齢者にも食べやすい
- ぶり・鱈……冬が旬の魚。ぶり大根、鱈のみぞれ煮など
- かぼちゃ(冬至)……行事食としても定番(1年カレンダー)
冬メニューの工夫③:乾燥と水分不足に注意
意外な落とし穴が冬の脱水。夏と違って喉の渇きを感じにくいので、水分摂取量が減りがちです。
- 汁物を増やす……食事から水分を摂ってもらう工夫
- とろみのある飲み物……嚥下に配慮が必要な方には、飲みやすさも大事(食事形態のリアル)
- 温かい飲み物を添える……体も温まって一石二鳥
冬の厨房のリアル
ちなみに厨房の中は冬でも暑いです。火を使うので、外は氷点下でも中は汗をかくくらい。
- そのぶん洗い場や下処理場は寒い——同じ厨房内で温度差が激しい
- 水が冷たいので、手荒れとの戦いも本格化します
- 意外と冬こそ厨房での水分補給が大事。汗をかいてる自覚が薄いので要注意
年末年始も給食は止まらない
そして冬の最大イベントが年末年始。クリスマス、年越しそば、おせち風の献立、お雑煮——行事が連続する繁忙期です。
世間が休んでいる間も、施設の食事は毎日あります。交代で出勤して、いつも通り温かい食事を届ける。地味だけど、これが給食の仕事の芯だと思っています(繁忙期のドタバタな1日)。
冬の定番メニューと、その理由
冬の献立には「なぜそれを出すのか」という理由があります。ボクがよく組み込むメニューを挙げておきます。
- けんちん汁・豚汁……具だくさんで栄養が摂れて、体が温まる。冬の主役です
- あんかけ料理……とろみで冷めにくい。中華風あんかけ、かに玉風など
- 茶碗蒸し……やわらかくて食べやすく、温かい。高齢者にとても人気があります
- おでん・煮込み……じっくり煮ることで、根菜がやわらかく甘くなります
- グラタン・シチュー……乳製品でたんぱく質とカルシウムも一緒に
- 鍋風の献立……白菜とねぎがたっぷり摂れる。見た目にも温かい
共通しているのは「汁気があって、やわらかくて、温かい」こと。冬はこの3つが揃うと、それだけで喜ばれます。
ノロウイルス対策の「現場での実際」
記事の前半で対策の原則を書きましたが、実際に現場でやっていることも具体的に挙げておきます。
- 手洗いは2回洗い……石けんで洗って流し、もう一度洗う。冬場は特に徹底します
- 二枚貝は扱いを分ける……使う日は調理台と器具を専用に。加熱も中心温度を必ず測定
- 嘔吐物処理セットを常備……次亜塩素酸、使い捨て手袋、マスク、ペーパー。場所を全員が知っていることが大事
- 体調不良者の申告ルール……本人だけでなく同居家族の症状まで。家族がノロなら本人も感染している可能性があります
- ドアノブ・蛇口の消毒……アルコールでなく次亜塩素酸で。ノロにはアルコールが効きにくいためです
特に「家族の体調まで申告」は、慣れないと抵抗があるかもしれません。でもこれで防げた事例を何度も見てきました。言いにくいことを言える空気を作るのも、現場の責任者の仕事だと思っています。
冬こそ気をつけたい「隠れ脱水」
夏の脱水はよく知られていますが、冬の脱水は見落とされがちです。
- 喉の渇きを感じにくい……寒いので、水分を欲しいと思わない
- 空気が乾燥している……呼吸や皮膚から、知らないうちに水分が失われます
- トイレを気にして控える……高齢者は「トイレが近くなるから」と水分を減らしがち
だから食事から水分を摂ってもらう工夫が効きます。汁物を毎食つける、あんかけで水分を含ませる、温かいお茶やスープを添える。「飲んでください」と言うより、自然に摂れる献立にするほうが確実です。
まとめ:冬は「守り」と「温もり」の両立
冬の給食は、ノロウイルス対策という「守り」と、温かさ・旬・水分という「温もり」の両立。夏とはまったく違う気の使い方が必要です。
寒い日に温かい汁物を出したとき、「あったまるねぇ」と言ってもらえる瞬間——冬の給食はこれがあるから頑張れます。


