
こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
新人さんに衛生のことを教えていると、よくこう聞かれます。
「それって、法律で決まっているんですか?それとも、この職場のやり方ですか?」
とても良い質問です。給食の衛生ルールには、実は出どころが3つあります。国の基準、会社や施設のルール、そしてその現場のやり方です。この3つがごちゃ混ぜのまま覚えると、異動したときに「前の職場と違う」と迷ったり、本当に守らなければいけない線を見失ったりします。
この記事では、給食現場で絶対にやってはいけない衛生管理のミスを10個取り上げ、それぞれを「国の基準」「会社・施設のルール」「現場のやり方」の3つに分けて整理します。数字は厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」の原文で確認しました。
※会社・施設のルールと現場のやり方の例は、私の経験をもとにした架空の一例です。実際のルールは勤務先の決まりに従ってください。
この記事でわかること
- 給食の衛生ルールの出どころ(国の基準・会社のルール・現場のやり方)
- 現場で絶対にやってはいけない衛生ミス10個と正しいやり方
- 新人と異動した人が、どこから覚えればいいか
衛生ルールの出どころは3つある
最初に、3つの違いを表にしておきます。
| 出どころ | 中身 | 変わるか |
|---|---|---|
| 国の基準 | 厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」。75℃で1分、検食は−20℃で2週間など、数字の土台 | どこの給食現場でも同じ |
| 会社・施設のルール | 国の基準を「具体的にどうやるか」に落とした決まり。まな板の色、記録用紙の様式、温度を測る回数など | 会社や施設によって違う |
| 現場のやり方 | その厨房の広さ・人数・献立に合わせた段取り。誰がいつ測るか、どこに置くかなど | 事業所ごとに違う |
大量調理施設衛生管理マニュアルは、1997年(平成9年)に国から出された通知です。法律の条文そのものではありませんが、同じメニューを1回300食以上、または1日750食以上つくる施設に適用され、それより小さい施設でも、ほとんどの給食会社がこのマニュアルに準じて運営しています。つまり給食現場の衛生の「物差し」です。
マニュアルの数字を一覧で見たい方は、大量調理施設衛生管理マニュアルを「数字」で読むにまとめています。
なぜ給食の衛生は飲食店より厳しいのか
給食は、同じ人が毎日食べる食事です。高齢者施設なら、食中毒で重症化しやすい方が食べています。そして一度に何十食、何百食とつくるので、1つのミスがそのまま全員に広がります。
だからこそ、国の基準は「全員が守る最低ライン」、会社のルールは「その最低ラインを確実に守るための仕組み」、現場のやり方は「仕組みを毎日回すための工夫」になっています。この順番で考えると、どのルールも意味が分かってきます。
NG①:手洗いを「サッと」で済ませる
- 国の基準:作業を始める前、トイレの後、生の肉・魚・卵を触った後などは、流水と石けんでしっかり2回洗う。拭くのは使い捨てのペーパータオルなどで、タオルの共用はしない
- 会社・施設のルール:手洗いの手順を絵で示したポスター、洗う秒数の目安、アルコール消毒の有無など(例:「1回あたり30秒以上」と決めている会社もあります)
- 現場のやり方:下処理場から調理場に入る前に必ず手洗い場を通る動線にする、忙しい時間帯ほど声をかけ合う、など
新人さんに多いのは、「1回洗ったから大丈夫」と思い込むことです。国の基準で2回と決まっている場面があることを知っているだけで、手の洗い方が変わります。
NG②:中心温度を測らずに「見た目で判断」
- 国の基準:加熱調理は中心部が75℃で1分以上。二枚貝などノロウイルス汚染のおそれがある食品は85〜90℃で90秒以上。揚げ物・焼き物などは、校正された温度計で3点以上測り、すべての点で75℃以上を確認して記録する
- 会社・施設のルール:記録用紙の書き方、温度計の点検の頻度、基準に届かなかったときの対応(加熱を延長して測り直す、など)
- 現場のやり方:どの料理を誰が測るか、一番大きい肉や一番厚い部分を選んで刺す、といった段取り
「焼き色がついたから大丈夫」は通用しません。温度計そのものがずれていることもあるので、確かめ方は給食の温度計、その75℃は本当に合ってる?で詳しく書いています。
NG③:まな板・包丁を「使い回す」
- 国の基準:包丁やまな板は用途別・食品別に用意して混同しない。下処理用は魚介類用・食肉類用・野菜果物用、調理用は加熱調理済み食品用・生で食べる野菜果物用・生で食べる魚介類用に分ける
- 会社・施設のルール:分け方を「色」で決めることが多いです(例:肉は赤、魚は青、野菜は緑、加熱済みは白、など)。色の割り当ては会社によって違います
- 現場のやり方:まな板立ての置き場所、使った後にどこで乾かすか、数が足りないときの洗浄・消毒の手順
ここは異動したときに一番混乱しやすいところです。「前の職場では白が野菜だった」と覚えたままにせず、新しい職場の色を最初に確認するのが大事です。国の基準は「分けること」で、色は会社のルールです。
NG④:検食を取り忘れる・冷蔵庫に入れてしまう
- 国の基準:原材料と調理済みの食品を、食品ごとに50g程度ずつ清潔な容器に入れて密封し、−20℃以下で2週間以上保存する
- 会社・施設のルール:使う容器や袋、ラベルに書く項目(日付・献立名・採取した人など)、検食用の冷凍庫の場所
- 現場のやり方:盛り付けの最初に取る、取った人が記録表にチェックを入れる、など取り忘れを防ぐ工夫
検食は、万一食中毒が起きたときに原因を調べるための大事な証拠です。冷蔵庫に入れてしまうと−20℃に届かないので意味がありません。冷凍庫の温度もあわせて確認します。
NG⑤:消毒液の濃度が「適当」
- 国の基準:生で食べる野菜や果物を殺菌する場合、次亜塩素酸ナトリウムなら200mg/L(200ppm)で5分間、または100mg/L(100ppm)で10分間。嘔吐物の処理は消毒剤を使って迅速に行う。厚生労働省のノロウイルスQ&Aでは、嘔吐物の処理には0.1%(1,000ppm)が目安とされています
- 会社・施設のルール:使う消毒剤の種類、希釈の早見表、嘔吐物処理セットの中身と置き場所
- 現場のやり方:計量カップを消毒液の横に置いておく、作り置きせずその日に作る、など
目分量で薄めると、薄すぎれば殺菌が足りず、濃すぎれば器具を傷めたり、すすぎ残しの原因になったりします。必ず量って作るのが基本です。洗浄と消毒の考え方は洗浄・消毒の記事も参考にしてください。
NG⑥:冷蔵・冷凍庫の温度を見ていない
- 国の基準:原材料は種類ごとの温度で保管する(例:食肉は10℃以下、魚介類は5℃以下、冷凍食品は−15℃以下)。調理後の食品は10℃以下か65℃以上で管理し、調理後2時間以内に食べてもらうのが望ましい
- 会社・施設のルール:庫内温度を測る回数(例:始業時と終業時の1日2回)、記録表の様式、異常があったときの連絡先
- 現場のやり方:扉の開けっぱなしを防ぐ、詰め込みすぎない、故障したときに食材をどこへ移すかを決めておく
冷蔵庫は「冷えているはず」と思い込みがちですが、夏場や納品が重なった日は庫内の温度が上がります。数字を見て、書いて、おかしいと思ったらすぐ報告する。この流れが会社のルールとして決まっているはずなので、最初に確認しておきましょう。
NG⑦:生と加熱済みの「境目」を意識していない
- 国の基準:厨房を汚染作業区域(検収場・原材料の保管場・下処理場)と非汚染作業区域(準清潔作業区域=調理場、清潔作業区域=放冷・調製場・できた料理の保管場)に分け、はっきり区別する
- 会社・施設のルール:区域ごとのエプロンや履物の色分け、区域をまたぐときの手洗い・着替えの決まり
- 現場のやり方:生の食材を運んだトレーと盛り付け用のトレーを分けて置く、加熱前の食材を盛り付け台に仮置きしない、など
生の食材についた菌が、加熱済みの料理に移ることを「二次汚染」と言います。区域の線は床に引かれていなくても、頭の中に引いておくことが大事です。
NG⑧:体調が悪いのに出勤する
- 国の基準:調理する人は、下痢・嘔吐・発熱などの症状があるとき、手指に化膿した傷があるときは調理作業に従事しない。下痢や嘔吐の症状があれば、すぐに医療機関を受診する。ノロウイルスと診断された場合は、高感度の検便検査でウイルスを持っていないと確認できるまで、食品に直接触れる作業を控えることが望ましい。検便は月1回以上、10月から3月はノロウイルスの検査にも努める
- 会社・施設のルール:体調不良のときの連絡先と連絡のしかた、復帰するときに必要な書類や検査、家族が感染したときの扱い
- 現場のやり方:急な欠勤が出ても回せるように、日ごろから作業を複数人で覚えておく
「人が足りないから休めない」と無理をして出勤し、料理を通じて感染が広がるのが一番怖いパターンです。休む判断の目安は給食調理員が休む基準に、ノロウイルス対策はノロウイルス対策の記事にまとめています。
NG⑨:納品のときに中身を確かめない
- 国の基準:原材料の納品には調理する側が必ず立ち会い、品質・鮮度・品温・異物の混入などを点検して記録する。肉・魚・野菜などの生鮮食品は、1回で使い切る量を調理する日に仕入れるのが原則
- 会社・施設のルール:検収記録表の項目、基準から外れたときに返品するかどうかの判断と連絡先
- 現場のやり方:先に入ったものから使う並べ方、開封した調味料に開封日を書く、など
納品の数を数えるだけで終わらせず、温度と状態まで見るのが「検収」です。詳しくは検収の記事で書いています。
NG⑩:衛生の記録を「後でまとめて書く」
- 国の基準:納品の記録、点検表、検査結果などの記録は1年間保管する。また、2021年6月からはHACCPに沿った衛生管理が制度化され、給食施設も対象になっている
- 会社・施設のルール:記録用紙の様式、誰が確認して印を押すか、書き間違えたときの直し方(二重線で消して書き直す、など)
- 現場のやり方:記録用紙とペンを測る場所のすぐ横に置く、測ったらその場で書く
後でまとめて書くと、数字が実際に測った値ではなくなります。それでは記録の意味がありません。書き方のコツは給食の衛生記録の書き方、HACCPの考え方は給食のHACCPをやさしく読むで解説しています。
新人さんは「国の基準」から覚える
10個並べると多く感じますが、覚える順番があります。
- まず国の基準の数字を3つ:加熱は75℃で1分以上/保管は10℃以下か65℃以上/調理後2時間以内。これはどこの給食現場に行っても変わりません
- 次に会社のルール:まな板の色、記録用紙、体調不良のときの連絡先。入社のときに渡される衛生マニュアルや研修で確認します
- 最後に現場のやり方:その厨房の先輩に聞いて、実際に動きながら覚えます
先輩から「こうして」と言われたときに、「これは国の基準ですか、この現場のやり方ですか」と聞いてみるのもおすすめです。理由が分かると忘れにくくなりますし、ちゃんと聞ける新人さんは現場でも信頼されます。
異動したら「現場のやり方」から確かめる
給食会社では、事業所の異動や応援がよくあります。そのとき変わるのは、ほとんどが「現場のやり方」と、施設によっては「施設のルール」です。国の基準は変わりません。
新しい現場に入ったら、まな板の色・記録用紙の場所・検食の取り方・体調不良の連絡先、の4つを最初に確認しておくと安心です。異動のときに確かめることは給食会社の事業所異動のリアルにまとめています。
まとめ|線を引いて覚えると、ルールは守れる
給食の衛生ルールは、国の基準・会社や施設のルール・現場のやり方の3つでできています。
- 国の基準は、どこでも変わらない最低ライン
- 会社・施設のルールは、その最低ラインを確実に守るための仕組み
- 現場のやり方は、その仕組みを毎日回すための工夫
「なぜそうするのか」を出どころから理解しておくと、慣れてきた頃の油断も防げます。毎日食べてくださる方の安全のために、この10個を一つずつ確かめてみてください。
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