こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
大量調理シリーズ第15弾はほうれん草です。おひたし、ごま和え、味噌汁、ソテー。給食では一年中出てくる青菜ですが、実は扱いがとても難しい野菜です。根元に砂が残る、ゆでると一気にかさが減る、色がくすむ、水っぽくなる。家庭の1把とは違って、何十人分、百人分となると、ちょっとした差がそのまま全員の皿に出ます。
この記事では、給食の厨房でほうれん草を大量に扱うときの下ごしらえ・ゆで方・冷まし方・味付けのコツと、高齢者施設ならではの注意点をまとめます。
この記事でわかること
- ほうれん草が大量調理で難しい4つの理由
- 砂を残さない洗い方と、ゆで方・冷まし方・しぼり方
- 味付けのタイミングと、冷凍ほうれん草の使い方
給食のほうれん草が難しい4つの理由
- 砂と泥:根元の株の間に土が入り込みやすく、1枚ずつ洗わないと残る
- かさが大きく減る:生ではかごいっぱいでも、ゆでると驚くほど少なくなる
- 色が変わりやすい:ゆですぎ・冷ますのが遅い・味付けが早いと、緑がくすんで茶色っぽくなる
- 水っぽくなる:しぼりが足りないと、盛り付けた後に水が出て味がぼやける
どれも「ほうれん草は簡単な野菜」と思って油断したときに起きます。順番に対策を見ていきます。
下ごしらえ:砂を残さない洗い方
根元に切り込みを入れてから洗う
ほうれん草の砂は、ほとんどが根元の株の間にあります。根の先を少し落とし、太い株には十字の切り込みを入れてから洗うと、株の内側まで水が入って砂が落ちやすくなります。
ためた水で、水を替えて何度も
大きなシンクに水をため、根元を中心に振り洗いします。水を替えて、底に砂が沈まなくなるまで繰り返すのが基本です。1回目の水は驚くほど濁ります。最後は流水ですすぎます。
洗浄と消毒の考え方は洗浄と消毒の記事もあわせてどうぞ。
ゆで方:たっぷりの湯で、根元から、短く
湯はたっぷり、一度に入れすぎない
大量調理でいちばん多い失敗は、一度に入れすぎて湯の温度が下がることです。温度が下がると、ゆで上がりまで時間がかかり、色が悪くなり、食感もくたっとします。回転釜でも寸胴でも、湯はたっぷり沸かし、何回かに分けてゆでます。
根元から先に入れる
茎と葉では火の通りが違います。根元(茎)を先に湯に入れて少し待ってから、葉を沈めると、茎はやわらかく、葉はゆですぎにならずに仕上がります。
アクが気になる理由
ほうれん草のえぐみのもとは、シュウ酸という成分です。調べてみると、シュウ酸は水に溶けやすく、ゆでることで一部がゆで汁に溶け出すとされています(食品安全委員会の資料では、ゆでると水溶性のシュウ酸の7〜8割が溶け出すという調査が紹介されています)。生のまま使わず、ゆでてから使うのが基本なのはこのためです。
冷まし方:ここがいちばん大事
ゆでた後の冷まし方で、色も、食感も、衛生も決まります。
すぐに冷水へ
ゆで上がったら、すぐに冷水に取って一気に冷まします。余熱で火が入り続けると、色がくすみ、やわらかくなりすぎます。冷水は何度か替えて、ぬるくならないようにします。
加熱後に冷ますものは時間を守る
おひたしや和え物のように、加熱した後に冷まして出す料理は、冷ます時間にも決まりがあります。大量調理施設衛生管理マニュアルでは、加熱調理した食品を冷ますときは30分以内に中心温度を20℃付近、または60分以内に10℃付近まで下げるよう工夫することとされています。冷ましたものは冷蔵庫で保管し、ゆでた時刻と冷めた時刻を記録します。
数字の意味は大量調理施設衛生管理マニュアルを「数字」で読むにまとめています。
しぼり方と切り方:水っぽさを防ぐ
冷めたら、根元をそろえて束ね、しっかり水気をしぼります。しぼりが甘いと、盛り付けた後に皿の底に水がたまり、味が薄まります。
大量のときは、少量ずつ手に取って均一にしぼるのがコツです。しぼった後に長さをそろえて切り、もう一度軽くしぼると、さらに水っぽさが防げます。
味付けは「食べる直前」が基本
おひたしや和え物は、調味料と和えるのはできるだけ提供の直前にします。早く和えると、調味料の塩分で水が出て、色も変わります。
- おひたし:だし割りしょうゆは直前にかける
- ごま和え:和え衣は先に作っておき、直前に和える
- 汁物:火を止める直前に入れて、煮すぎない
- ソテー・炒め物:ゆでて水気をしぼってから炒めると、水が出にくい
和え物全体のコツはサラダ・和え物の記事、汁物は汁物の記事で紹介しています。
量は「ゆでた後」から逆算する
ほうれん草は、ゆでるとかさが大きく減り、しぼると重さも減ります。そのため、仕上がりの量から逆算して発注するのが大事です。
おすすめは、自分の現場の「生の重さ」と「ゆでてしぼった後の重さ」を一度量って記録しておくことです。同じほうれん草でも、季節や太さ、しぼり方で変わります。一度記録しておけば、次からの発注と盛り付け量がぶれなくなります。白菜の回でも同じ話をしましたが、青菜はとくに差が大きい食材です。
冷凍ほうれん草を上手に使う
給食の現場では、冷凍ほうれん草もよく使います。洗う・ゆでる・切る手間がかからず、砂の心配もなく、量も安定します。
- 汁物・炒め物・グラタンなど、加熱する料理に向いている
- 凍ったまま使えるものが多い(袋の表示に従う)
- おひたしに使うときは、解凍後の水気をしっかりしぼる
- 生のほうれん草より食感はやわらかめ。高齢者向けにはむしろ使いやすいこともある
普段は冷凍、季節の献立や行事食では生、と使い分ける現場も多いです。
冷凍ほうれん草は、業務用のカットしてバラ凍結したものが使いやすいです。
高齢者施設向けには、最初から刻んでやわらかく仕上げたおひたしもあります。
高齢者施設で気をつけること
① 繊維と、口に貼りつく葉
ほうれん草の茎は繊維があり、葉は薄くて口の中に貼りつきやすい食材です。かむ力や飲み込む力が弱い方には、やわらかくゆでてから細かく刻む、とろみのある和え衣やあんでまとめる、といった工夫をします。食事の形態ごとの考え方は食事形態の記事で書いています。
② カリウム
ほうれん草は生100gあたりカリウムが690mgと多い野菜です。ゆでると490mgに減ります(日本食品標準成分表2020年版(八訂))。カリウムの制限がある方への対応は、施設の栄養士の指示に従います。
③ 食事や薬の指示がある方
病気や飲んでいる薬によって、食べ物の指示が出ている方もいます。ほうれん草に限らず、指示がある方の食事は、施設の栄養士の指示どおりにつくります。調理員が自己判断で変えないのが原則です。
ほうれん草の栄養と「冬採り」
日本食品標準成分表2020年版(八訂)で見ると、ほうれん草(葉・生)100gあたりは次のとおりです。
- エネルギー:18kcal
- 水分:92.4g
- カリウム:690mg
- ビタミンC:夏採り20mg/冬採り60mg(通年平均35mg)
同じほうれん草でも、冬に採れたものはビタミンCが夏採りの3倍あります。旬の冬こそ、ほうれん草の出番です。なお、ゆでると通年平均で19mgに減ります。ゆですぎないことは、色や食感だけでなく栄養の面でも大事です。
冬の献立に使いやすいほうれん草料理5つ
- ほうれん草のおひたし:基本の一品。だしを効かせて、直前にかける
- ほうれん草のごま和え:ごまの香りで食べやすい。和え衣は先に作る
- ほうれん草と卵のスープ:火を止める直前に入れる
- ほうれん草とベーコンのソテー:ゆでて水気をしぼってから炒める
- ほうれん草の白和え:豆腐の水切りをしっかり。高齢者にもやさしい
冬の献立全体は冬メニューの記事もどうぞ。
失敗あるある3つ
- 砂が残ってクレームに:根元の切り込みと、水を替えての洗い直しを省いたときに起きる
- おひたしが茶色く:ゆですぎ、冷水に取るのが遅い、早く味付けした、のどれか
- 量が足りない:生の重さで考えて、ゆでた後の減り方を見込んでいなかった
まとめ|ほうれん草は「洗う・短くゆでる・すぐ冷ます・直前に和える」
- 砂は根元に切り込みを入れて、水を替えて何度も洗う
- ゆでるのはたっぷりの湯で、根元から、短く。一度に入れすぎない
- ゆでたらすぐ冷水へ。冷ます時間はマニュアルの基準(30分で20℃付近・60分で10℃付近)を守る
- しっかりしぼって、味付けは直前
- 量はゆでた後から逆算。自分の現場の歩留まりを一度量っておく
- 冷凍ほうれん草は加熱料理に便利
- 冬採りはビタミンCが夏採りの3倍。冬こそ出番


