こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
大量調理シリーズも第16弾になりました。今回は少し変わり種で、「作らない食材」のパンです。高齢者施設の給食では、朝食でごはんとパンを選べるようにしている施設が多く、パンの日は厨房の動きがごはんの日とまったく違います。焼いたり煮たりしないぶん楽そうに見えますが、パンは給食の主食の中でいちばん「のどに引っかかりやすい」食べ物で、形態対応もいちばん難しい主食です。
今回は、パンの難しさ4つと、食べやすく出すための工夫、朝食のパンの日の段取り、形態別の出し方をまとめます。
※食数や段取りは架空の一例です。パンの種類や形態の呼び方は施設によって違います。
この記事でわかること
- パンを給食で出すときの難しさ4つ
- 食べやすく出す工夫と、食事形態別の出し方
- 朝食のパンの日の段取り(一例)
パンの難しさ4つ
① 口の中でまとまらず、のどに引っかかる
パンは水分が少なく、かむと口の中でパサパサに散らばります。唾液が少ない高齢の方だと、まとまりにくいまま飲み込んでしまい、むせたり詰まったりしやすくなります。調べてみると、厚生労働省の人口動態統計では、食べ物をのどに詰まらせて亡くなる方が年間4,000人を超え、その9割以上が65歳以上とされています。餅ばかりが注目されますが、パンも「水分を取ってから、小さくちぎって、よくかむ」が必要な食べ物です。
② 時間がたつとかたくなる
トーストしたパンは、配膳までの時間で表面がかたくなります。やわらかく出したつもりでも、食べる頃には別物になっていることがあります。パンは「仕上がり」より「食べる時」を基準に考える必要があります。
③ きざみにできない
煮物やおかずは食事形態に合わせてきざんだりやわらかくしたりできますが、パンをそのまま刻んでも、口の中で散らばってかえって危なくなります。パンの形態対応は「切る」ではなく「水分を含ませる」が基本で、ここが他の主食といちばん違うところです。
④ 加熱しないまま出す
パンは業者さんから届いたものを、そのまま、あるいは軽く温めて出します。中心温度で安全を確かめる工程がないので、衛生面は検収と保管がすべてです。期限・包装の破れ・カビの有無を検収で見て、常温のまま長く置かず、使うまでは決められた場所で保管します。
食べやすく出すための工夫
- 汁物や飲み物を必ず添える……パンの日は、スープ・牛乳・お茶などの水分をセットにします。のどを潤してから食べてもらうためです。とろみが必要な方には、牛乳やスープにもとろみをつけます(水分補給の記事)
- 食べる時の大きさで出す……食パンは半分や4つ切りにして、一口の大きさを小さくしやすくします。ロールパンは1個のまま出さず、切れ目を入れておくだけでも食べやすさが変わります
- 塗るもので水分を足す……ジャムやマーガリンは、味だけでなく口の中でのまとまりを助けます。ただし好みが分かれるので、別添えにして選んでもらう施設も多いです
- トーストは軽めに……しっかり焼くほど配膳後にかたくなります。表面が色づく程度にして、かたさは「食べる時」で判断します
- パンの日は残食を見る……ごはんの日より残食が増える方がいれば、形態の見直しが必要なサインです(残食を減らす記事)
形態別の出し方(4通り)
- 常食……そのまま、または軽くトースト。半分に切って一口を小さくしやすく
- やわらかめ(一口大)……耳を落として一口大に切り、牛乳やスープを添える。パン自体は切らずに「飲み物でやわらかくして食べる」ことを本人や介護職員さんに伝える
- ソフト食……パン粥(パンを牛乳や豆乳、だしで煮てやわらかくしたもの)。甘くする場合と、だしで塩味にする場合があり、朝の主食として定番です
- ペースト食……パン粥をさらになめらかにして、とろみを整える。見た目が分かりにくくなるので、「今日はパンの日です」と声をかけてもらうと食事の楽しみが伝わります
やわらかく仕上げた市販のパンや、介護食用のパンもあります。厨房で全部作らず、そうした製品に頼るのも立派な選択です。やさしい食材の考え方はやさしい食材の記事にまとめています。
自分の現場で使ったことがあるわけではありませんが、冷凍で届くやわらかいパンは、形態対応の手間を減らす選択肢のひとつです。
朝食のパンの日の段取り(架空の一例)
朝食の厨房は人も時間も少ないので、パンの日は早番の朝食の流れがそのまま変わります。100食のうちパンが40食・ごはんが60食、という日の例です。
- 前日……パンの食数と形態を確認し、パン粥の分の牛乳・だしを用意。パンは検収したあと、翌朝まで決められた場所で保管
- 炊飯と並行してパン粥……炊飯とお粥に火を入れている間に、パン粥を仕込む。パン粥は冷めると固まるので、仕上げは配膳に近い時間
- トーストは最後……配膳の直前にまとめて焼く。早く焼くほどかたくなるので、ここは段取りの中でいちばん後ろ
- 盛り付け……パンの食札には飲み物の種類(牛乳・とろみ牛乳・スープ)も書かれているので、パンと飲み物をセットで確認
- 配膳後……パンの日は残食とむせの報告が多めに来るので、介護職員さんからの申し送りを次のパンの日に反映
「焼かない主食だから楽」というより、「水分と形態の確認が増える主食」というのがパンの日の実感です。全体の段取りの考え方は大量調理の段取りの記事へ。
パンの栄養と使いどころ
調べてみると、日本食品標準成分表(八訂)では食パンは100gあたり約250kcal、ごはん(白飯)は約156kcalです。食パン6枚切り1枚は60g前後なので、1枚で150kcal程度と、ごはん1杯(150gで230kcal程度)より少なめです。食が細い方には、パンにジャムやマーガリンを足したり、牛乳を添えたりして、量を増やさずにエネルギーを足せるのがパンの長所です。逆に、しっかり食べる方にはパン2枚や、スープに具を多めにして調整します。
パンは冷凍保存ができるので、食数の急な変更にも対応しやすい主食です。保管のルールは食材管理の記事にまとめています。
パン粥は厨房でも作れますが、朝の時間が足りない時はミックス粉タイプが便利です。
よくある質問
Q. パンの日は衛生のチェックが減る?
加熱の記録はありませんが、そのぶん検収の記録(期限・包装・温度)と、保管場所・時間の管理が大事になります。「加熱しない食品ほど、入口の確認が重い」と考えてください。
Q. パン粥は何で煮る?
牛乳が基本ですが、牛乳が苦手な方や乳アレルギーの方には豆乳やだしを使います。だしで煮て塩味にすると、おかずと合わせやすくなります。
Q. 菓子パンは出す?
行事やおやつで出すことはあります。クリームやあんが入ったものは、口の中でまとまりにくく、のどに残りやすいので、形態が常食の方に限って出す施設が多いです。
まとめ
- パンの難しさはのどに引っかかる・時間でかたくなる・きざみにできない・加熱せずに出すの4つ
- 工夫は水分を添える・食べる時の大きさで出す・塗るもので水分を足す・トーストは軽め・残食を見る
- 形態対応は「切る」ではなく「水分を含ませる」。常食→一口大+飲み物→パン粥→なめらかなパン粥の4通り
- 朝食のパンの日はトーストを最後に、パンと飲み物をセットで確認
- 衛生は検収と保管がすべて。加熱しない食品ほど入口の確認が重い
大量調理シリーズは、揚げ物・たまご・煮物・汁物・サラダ・麺類・きのこ・かぼちゃ・さつまいも・魚・大根・白菜・里芋・ほうれん草と続いてきました。パンは「作らない主食」ですが、出し方で安全が決まる食材です。次のパンの日の参考になればうれしいです。


