こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
「HACCP(ハサップ)」という言葉、給食の現場にいると毎日のように聞きます。記録表の名前にもなっているし、新人研修でも出てくる。でも「で、HACCPって結局なに?」と聞かれて、1分で答えられる調理員は多くありません。私も長いこと「温度を測って紙に書くやつ」くらいの理解でした。
今日は、HACCPの骨組みである「7原則12手順」を、厨房の1日に当てはめて読み直します。数字の話(75℃1分など)は衛生マニュアルを数字で読む記事に書いたので、この記事は「仕組み」の話に絞ります。
※事業所の運用や記録様式は会社によって異なります。この記事の事例は架空の一例で、会社名・施設名は伏せています。制度の内容は厚生労働省と業界団体の公開資料で確認しました。
この記事でわかること
- HACCPの考え方を1分で
- 12手順を厨房の言葉に翻訳すると何になるか
- 現場が実際にやることは3つだけという話
HACCPを1分で説明すると
HACCPは、Hazard Analysis(危害要因分析)と Critical Control Point(重要管理点)の頭文字です。1993年に国際的な食品規格の委員会(Codex)が「7原則12手順」としてまとめました。考え方はひとつだけ。「できあがった料理を検査して安全を確かめる」のではなく、「作る途中の危ないところを決めて、そこを毎回チェックする」。これだけです。
日本では2018年の食品衛生法改正で制度化され、2020年6月に施行、1年の猶予を経て2021年6月から全ての食品事業者に義務化されました。給食の現場も対象です。
ただし、大規模な工場向けの「HACCPに基づく衛生管理」と、小規模な事業者向けの「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の2種類があります。給食の多くは後者で、業界団体が作った手引書に沿って進めます。委託給食向けには、日本給食サービス協会と日本メディカル給食協会がまとめた手引書があり、2021年5月に厚生労働省のサイトに掲載されています。会社の衛生管理計画は、だいたいこの手引書が土台になっています。
12手順を厨房の言葉に翻訳する
7原則12手順は、最初の5つが「準備」、残りの7つが「本体(7原則)」です。工場向けに書かれているので、そのまま読むと遠い話に見えます。厨房の1日に置き換えると、こうなります。
準備の5手順
- 手順1 チームを作る……現場責任者、調理員、事務担当。「衛生は責任者の仕事」ではなく、全員で決める形にする
- 手順2 製品説明書……給食なら献立表と食事形態の一覧。何を、どの形態で、何食出しているか
- 手順3 誰が食べるかを確認……高齢者施設なら、飲み込む力が弱い人、免疫が下がっている人が食べる。ここが工場と一番違う
- 手順4 工程の一覧図……検収→保管→下処理→加熱→冷却→盛り付け→配膳→下膳→洗浄。紙に書く
- 手順5 その図を現場で確かめる……図と実際の動きがずれていないか、厨房を歩いて見る。「図では下処理室のはずが、実際は調理台でやっていた」はよくある
本体の7原則
- 原則1 危害要因を洗い出す……工程ごとに「何が危ないか」を挙げる。生物(菌・ウイルス)、化学(洗剤の混入、アレルゲン)、物理(異物)の3種類。衛生NG10選の記事に書いた失敗は、ほぼこの3つのどれか
- 原則2 重要管理点(CCP)を決める……危害要因の中で「ここを外したら他で取り返せない」場所。給食なら加熱の中心温度と加熱後の冷却がほぼ必ず入る
- 原則3 管理基準(CL)を決める……CCPを数字にする。中心温度75℃で1分以上、冷却は30分以内に20℃以下。数字の根拠は数字の記事に
- 原則4 モニタリング……その数字を「毎回」「誰が」「どうやって」測るか。中心温度計を刺して、記録表に書く。これがHACCPの心臓部
- 原則5 改善措置……基準に届かなかったときにどうするか、先に決めておく。再加熱して測り直す、届かなければ提供しない。「その場で考える」をなくす
- 原則6 検証……仕組みが動いているかを別の目で確かめる。責任者が週に一度記録を見る、温度計の狂いを月に一度確かめる
- 原則7 記録と保存……測った数字と、NGが出たときに何をしたかを残す。保存期間は手引書やマニュアルに沿って、1年を目安に
こう並べると、調理員が毎日やっている「温度を測って書く」は原則4だけで、その前後に6つの決めごとがあると分かります。記録表に書いている数字は、原則3で誰かが決めた基準を、原則4で自分が確かめている、という位置づけです。
「一般衛生管理」と「重要管理」の2階建て
手引書はもう一つ、大事な整理をしています。衛生管理を「一般衛生管理」と「重要管理」の2階建てで考える、という整理です。
- 一般衛生管理(1階)……手洗い、体調チェックと検便、身だしなみ、検収、保管温度、器具の洗浄消毒、清掃、害虫対策。毎日同じことを同じようにやる土台
- 重要管理(2階)……献立ごとに決める加熱・冷却・提供温度のポイント。CCPそのもの
1階がしっかりしていないと、2階だけ守っても意味がありません。手洗いは検便と健康管理の記事、検収は検収の記事、洗浄消毒は洗浄と消毒の記事にそれぞれ書きました。全部この1階の話です。
献立を3つのグループに分ける
日本食品衛生協会の飲食店向け手引書では、メニューを「加熱しない」「加熱する」「加熱後に冷やす・再加熱する」の3グループに分けて重要管理点を決めます。給食の献立に当てはめると、こうなります。
- 加熱しないもの……サラダ、和え物、果物。次亜塩素酸で消毒し、提供まで冷やす。菌を「つけない・増やさない」の勝負
- 加熱するもの……焼き魚、揚げ物、煮物、汁物。中心温度75℃1分(ノロ対策なら85〜90℃90秒)。揚げ物の記事で書いた「設定温度と実温度は別」はここの話
- 加熱後に冷やす・再加熱するもの……ポテトサラダの芋、前倒しで作る煮物、冷やして出す茶碗蒸し。冷却30分20℃以下と、再加熱75℃1分の2つを守る。一番手順が多く、一番事故が起きやすい
新人に献立表を渡すとき、「この献立は3つのどれ?」と聞くだけで、その日に測るべき温度が自分で分かるようになります。
現場が実際にやることは3つ
- 衛生管理計画を紙1枚にする……「何を」「いつ」「どうやって」「問題があったらどうする」の4列で、一般衛生管理と重要管理を書く。手引書に様式がある
- 毎日の記録……日付、担当、測った数字、OKかNGか、NGなら何をしたか。チェック表1枚で足りる
- 月に一度の振り返り……NGが多かった項目、書き忘れが多かった日、温度計の状態。責任者と一緒に見る
新人がつまずく3つ
- 記録が目的になる……「あとでまとめて書く」は、測っていないのと同じ。測ったその場で書く
- 数字を丸める……74℃を「75」と書きたくなる。基準に届かなかったら、届かなかったと書いて再加熱する。それが原則5
- NGを書くのが怖い……書いたら怒られる、と思っている現場は記録が全部OKになる。全部OKの記録表は、監査で一番疑われます。NGを正直に書いて改善措置まで書いた人が、一番ちゃんとやっている人です
HACCPと大量調理マニュアルの関係
「HACCPと大量調理施設衛生管理マニュアル、どっちを守ればいいの?」と聞かれることがあります。答えは両方で、役割が違う。マニュアルは「何を、どの数字で」を決めた文書、HACCPは「決めて、測って、記録して、見直す」という仕組みの名前です。マニュアルの数字を、HACCPの仕組みで毎日回す。それが給食の衛生管理の全体像です。
ノロ対策はノロ対策の記事、アレルゲンは化学的危害としてアレルギー対応の記事、保存食は原則7の記録に近い話として検食・保存食の記事に書いています。
まとめ
- HACCPは「作る途中の危ないところを決めて、毎回チェックする」仕組み。2021年6月から全事業者に義務化
- 12手順のうち調理員が毎日やっているのは原則4(モニタリング)。前後に6つの決めごとがある
- 衛生管理は一般衛生管理(土台)と重要管理(CCP)の2階建て
- 献立は加熱しない/加熱する/加熱後に冷やすの3グループで測る温度が決まる
- NGを正直に書いて改善措置まで書くのが、一番HACCPをやっている人
「温度を測って紙に書くやつ」で16年やってきた私が、仕組みとして読み直したのは事務に回ってからでした。数字の裏に決めごとがあると分かると、同じ記録表が少し違って見えます。


