こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
厨房で長く働く人が、口を揃えて言うことがあります。「腰だけは守れ」。手荒れは治る、やけども治る。でも腰は一度やると、その後の働き方が全部変わります。私のまわりでも、腰で現場を離れた人が何人もいます。
今日は、給食調理員の1日を動作ごとに追って、どこで腰が削られるのか、どう体を使えばいいのか、そして会社に何を頼めるのかを書きます。根拠には厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」を使いました。医学的な治療の話ではなく、現場の使い方の話です。痛みがある人は必ず医師に相談してください。
※事例は架空の一例です。会社名・施設名は伏せています。数字は厚生労働省の指針で確認しましたが、体格や職場で変わるので目安として読んでください。
この記事でわかること
- 腰は重さより「姿勢と回数」で削られること
- 検収から洗浄まで、1日の動作別の腰の守り方
- ぎっくり腰になったときの動き方と、自分でできる3つ
腰は「重いもの」より「姿勢と回数」で削られる
厚生労働省の腰痛予防対策指針は1994年にできて、2013年に19年ぶりに改訂されました。改訂で介護や福祉の現場が加わったのですが、指針が繰り返し言っているのは「重さ」だけでなく「前かがみ・ひねり・同じ姿勢の長さ・繰り返し」が腰痛の原因だということです。
給食の現場に当てはめると、こうなります。30kgの米袋を月に数回持つより、毎日3時間、シンクや作業台に前かがみで立っているほうが腰を削っています。だから対策も「重いものは2人で」だけでは足りません。1日の動作を一つずつ見直す必要があります。
ちなみに指針の重量の目安は、人力で扱うなら成人男性で体重のおおむね40%以下、女性はその60%程度。体重60kgの男性なら24kg前後、女性なら15kg前後です。30kgの米袋は、指針で見ると1人で持つ重さではありません。
1日の動作別:ここで腰が減る
朝:検収と搬入
納品された段ボールを床から持ち上げる動作が、1日の最初の山です。膝を曲げて腰を落とし、荷物を体に近づけてから立つ。持ったまま体をひねらない。ひねりたくなったら、足の向きを変えます。台車があるなら床に置かず台車の上で受け取る。検収の流れ自体は検収の記事に書きました。
朝:米とぎと炊飯
米袋と炊飯釜が重量物の代表です。米は袋ごと持ち上げず、計量カップや小さな容器で袋から小分けにして運ぶ。炊けた釜は水を含んで重くなるので、立体炊飯器の一番下の段は特に注意。腰の高さより低い段は膝で受ける。炊飯の段取りは大量炊飯の記事に。
午前:下処理
一番腰を使っているのに、一番気づかないのがここです。皮むき、切りもの、洗いもの。作業台が低いと、前かがみが30分、1時間と続きます。対策は3つ。作業台の高さを自分の腰骨あたりに合わせる(低ければまな板の下に台を入れる)、片足を低い足台に乗せて交互に替える、20〜30分に一度は体を起こして反らせる。指針にも「同じ姿勢を続けない」「作業台の高さを合わせる」が書かれています。
昼前:回転釜とスチコン
回転釜のかき混ぜは、腕と腰でやると持ちません。足を前後に開いて、体重移動でヘラを動かす。スチコンのホテルパンは、煮汁が入ると1枚で5kgを超えることがあります。腰の高さの段だけ手で出し、上下の段は台車を横に付けるか2人で。器具の話は調理器具図鑑の記事に。
昼:配膳
配膳ワゴンは押す。引かない。引くと腰をひねりながら後ろ向きに歩くので、一番危ない動作です。ワゴンの取っ手が低い場合は、上の段に持ち手を足してもらう。トレイを取る動作も、体をひねらず足の向きを変えます。
午後:洗浄
シンクにかがむ、重い鍋を洗う、濡れた床で足を踏ん張る。床の水と長靴の滑りが、ぎっくり腰の引き金になります。床の水は都度流す、長靴の底がすり減っていたら交換を頼む。大きな鍋は流しに入れてから洗うのではなく、洗い場の高さに合った台に乗せて洗います。
会社に頼めること:指針が根拠になる
腰痛対策は「気をつけよう」だけでは減りません。指針は事業者が講じるべき対策を並べていて、現場から会社に頼むときの根拠になります。
- 台車・足台・作業台の高さ調整……設備の話は現場では動かせない。指針を根拠に本部へ
- 重量物の小分け……米は30kg袋でなく10kg袋で発注する。単価は少し上がるが、腰と天秤にかければ安い
- 腰痛健康診断……重量物を扱う作業に常時従事する人には、配置時と、その後6か月に1回の腰痛健康診断を医師が行う、と指針にあります。給食が「常時重量物」に当たるかは会社の判断ですが、頼む根拠にはなります
- 冷えの対策……冷蔵庫・下処理室での作業が長い人は、腰を冷やすと痛めやすい。防寒具やローテーションを
- 休憩の取り方……早番で6時間立ちっぱなし、が一番腰に来ます。シフトの組み方は早番遅番の記事に
暑さ対策でスポットクーラーを要望した話と同じで、「指針にこう書いてある」と根拠を付けて頼むと通りやすいです。委託会社の社員は施設の設備を勝手に変えられないので、自分の会社を通して施設に相談してもらう流れになります。
ぎっくり腰になったら:まず報告、労災の可能性
厨房でぎっくり腰をやると、「自分の不注意だから」と黙って市販薬で済ませる人がいます。でも仕事中に重いものを持ち上げて痛めた腰は、労災になる可能性があります。
労災の腰痛には2つの区分があります。災害性の腰痛は、仕事中の突発的な出来事(持ち上げた瞬間にグキッ)で起きたもの。非災害性の腰痛は、重量物を扱う仕事を長く続けた結果として起きたもので、こちらは認定のハードルが高いですが、対象にはなります。どちらにしても、その場で責任者に報告して、病院では「仕事中に」と伝える。手続きの流れはケガと労災の記事に書きました。
自分でできる3つ
- 体が温まる前に重いものを持たない……出勤して最初の10分は軽い作業から。冬の早番は特に
- 同じ側ばかり使わない……利き手側でばかり釜をかき混ぜる、同じ足を足台に乗せ続ける。左右を替えるだけで負担が半分になる
- 靴を軽く見ない……長靴のインソールと底のすり減り。足元の1cmが腰に来ます。身だしなみと同じくらい、靴は道具です。身だしなみの記事は衛生の話ですが、靴の項目は腰の話でもあります
まとめ
- 腰は重さより、前かがみ・ひねり・同じ姿勢の長さで削られる。下処理と洗浄が一番の山
- 指針の重量目安は男性で体重の40%以下、女性はその60%。30kgの米袋は1人で持つ重さではない
- 動作の型は膝を曲げる・体に近づける・ひねらない・ワゴンは押す
- 設備は指針を根拠に会社へ。台車・足台・台の高さ・小分け発注・腰痛健康診断
- ぎっくり腰はまず報告。労災の対象になることがある
私は幸い、まだ腰で仕事を休んだことがありません。運もありますが、若いときに先輩から「ワゴンは押せ」「かがむなら膝」と、うるさいくらい言われたからだと思っています。この記事が、誰かにとってのそのうるさい先輩になれば十分です。


