大量調理施設衛生管理マニュアルを「数字」で読む|給食調理員16年が現場の運用に翻訳

大量調理施設衛生管理マニュアルを数字で読む|キッチンのりちゃん 衛生管理

こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。

給食の現場で働き始めると、先輩から「中心温度は75℃で1分」「検食は50gで2週間」と、やたら数字を言われます。新人のころの私は、その数字を丸暗記していました。どこから来た数字なのかは、正直よく分かっていませんでした。

出どころは1つです。厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」。給食の現場の衛生ルールは、ほぼすべてこのマニュアルを土台にしています。

今日はこのマニュアルを、条文ではなく「数字」だけで読み解きます。数字を1つずつ取り出して、「現場では何をすることなのか」に翻訳していく形です。全文を読む前に、この記事で骨組みをつかんでもらえたらと思います。

※数字は厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」(平成9年3月24日付け衛食第85号別添、最終改正:平成29年6月16日)の記載にもとづいています。現場の運用は施設や会社ごとに異なります。

マニュアルとは何か(最初に3つだけ)

細かい話に入る前に、前提を3つ押さえます。

  • 1997年(平成9年)にできた……前年に起きた腸管出血性大腸菌O157の大規模食中毒を受けて作られました。「大量調理は一度事故が起きると被害が大きい」という反省が出発点です
  • 対象は「同一メニューを1回300食以上、または1日750食以上」……マニュアル本文にそう書いてあります。ただし、それより小さい施設も「このマニュアルに準じた衛生管理」を求められるのが実態で、私が担当してきた100食前後の高齢者施設も、中身はこのマニュアルどおりに動いています
  • HACCP義務化の土台になっている……2018年の食品衛生法改正で、2021年6月から原則すべての食品事業者に「HACCPに沿った衛生管理」が義務づけられました。給食施設もその対象です。現場で「HACCPの記録」と呼んでいる温度や時刻の記録は、このマニュアルの重要管理事項がそのまま項目になっています

つまり、このマニュアルを知ることは、自分の現場の衛生ルールの「理由」を知ることです。理由が分かると、忙しい日に「これは省いていい作業か」を判断できるようになります(答えはたいてい「省けない」ですが)。

数字で読む早見表

まず一覧です。左の数字を見て、右の「現場でやること」が言えれば、このマニュアルの骨組みは頭に入っています。

数字 場面 マニュアルの記載 現場でやること
10℃以下 受け入れ・保管 食肉類、乳製品などの保存温度 納品時に品温を測って記録。冷蔵庫の温度も毎日記録
−15℃以下 受け入れ・保管 冷凍食品の保存温度 冷凍庫の温度記録。霜が付く扉は閉まりが悪いサイン
2回 下処理 調理前・生の肉魚を触った後などの手洗い回数 「洗って、もう1回洗う」。流水と石けんで2度洗い
200mg/L・5分 下処理 加熱せずに出す野菜・果物の次亜塩素酸ナトリウム殺菌(100mg/Lなら10分) 希釈表で濃度を作り、つけ置き時間をタイマーで測る
75℃・1分 加熱 中心部の温度と時間 中心温度計を一番厚い部分に刺し、温度と時刻を記録
85〜90℃・90秒 加熱 二枚貝などノロウイルス汚染のおそれのある食品 かき、あさり等は通常より高い温度で長く。冬は特に
30分で20℃/60分で10℃ 冷却 加熱後に冷ます食品の冷却目標 ブラストチラーや氷水。常温放置で自然に冷まさない
10℃以下または65℃以上 保管・配送 調理後すぐ提供しない食品の管理温度 温かい物は温蔵庫、冷たい物は冷蔵庫。「中間の温度」に置かない
2時間以内 提供 調理終了から喫食までの望ましい時間 逆算の段取り。早く作りすぎるのもルール違反になり得る
50g・−20℃・2週間 検食(保存食) 原材料と調理済み食品を食品ごとに保存 専用の袋に取り分けて日付を書き、専用冷凍庫へ
月1回 人の管理 調理従事者の検便(10〜3月はノロウイルス検査にも努める) 提出日を忘れない。臨時職員も対象
1年間 記録 納品記録・点検表・検査結果などの保管期間 ファイルに綴じて保管。保健所の立ち入りで見られる

ここから、特に現場で「意味を知らずにやっている人が多い」数字を、順番に翻訳していきます。

受け入れと保管:10℃以下・−15℃以下・1年間

マニュアルは「原材料の受入れ」から始まります。納品されたものを、品温を測り、包装や期限を見て、その結果を記録する。記録は1年間保管です。

現場で誤解されやすいのは、「冷蔵庫に入っていれば大丈夫」という感覚です。マニュアルが求めているのは「入っていたこと」ではなく「何℃だったかの記録」です。庫内温度を毎日記録するのは、事故が起きたときに「その日の温度は正常だった」と証明できる唯一の手段だからです。

検品の実務は検収の記事で書いています。

下処理:手洗い2回・次亜塩素酸200mg/Lで5分

「手を2回洗う」は、給食の現場に来て最初に驚くルールかもしれません。マニュアルには、作業開始前や生の肉・魚を触った後、トイレの後などは流水・石けんで2回、それ以外のときは丁寧に1回、と書かれています。1回目で汚れを落とし、2回目で残った菌を減らす、という考え方です。

そして、生で出す野菜・果物は、次亜塩素酸ナトリウム200mg/Lで5分間(または100mg/Lで10分間)の殺菌が求められます。「洗えばきれい」ではなく「決まった濃度で決まった時間」です。濃度の作り方を間違えると、殺菌できていないか、逆に塩素臭が残ります。

サラダの実際の段取りはサラダ・和え物の記事に、消毒の考え方は洗浄と消毒の記事にまとめています。

加熱:75℃で1分・二枚貝は85〜90℃で90秒

一番有名な数字です。中心部が75℃で1分以上。大事なのは「中心部」という言葉で、表面の温度ではありません。中心温度計を、一番厚い部分・一番火が通りにくい部分に刺して測ります。

そして、意外と知られていないのが、ノロウイルス汚染のおそれのある食品(かきなどの二枚貝)は85〜90℃で90秒以上という別基準があることです。ノロウイルスは熱に強く、75℃1分では不十分だからです。冬にかきフライを出すときは、いつもより温度も時間も上げる必要があります。

揚げ物の油温と中心温度の関係は揚げ物の記事に、ノロウイルスの対策全体はノロ対策の記事に書きました。

冷却と保管:30分で20℃・10℃以下または65℃以上・2時間以内

ここが、慣れた人ほど手を抜きやすいところです。

加熱した食品を冷ますとき、マニュアルは「30分以内に中心温度を20℃付近、または60分以内に10℃付近まで」下げるように求めています。食中毒菌がもっとも増えやすいのは、体温に近い温度帯です。そこに長くとどめないために、ブラストチラーや氷水で「急いで通り過ぎる」わけです。鍋ごと常温に置いて冷めるのを待つのは、一番やってはいけない冷まし方です。

調理後すぐ提供しない食品は10℃以下または65℃以上で管理します。つまり、冷たいか熱いか、どちらかに寄せる。「ちょっと温かい」が一番危ない、ということです。

そして、調理終了から2時間以内の喫食が望ましい。これは調理員の段取りに直結します。早く作れば安心、ではありません。提供時刻から逆算して、加熱を終える時刻を決める。大量調理の段取りが「逆算」から始まる理由は、この2時間にあります。

検食(保存食):50g・−20℃・2週間

「検食」は現場によって2つの意味で使われます。1つは責任者が提供前に味見をして記録する検食。もう1つが、マニュアルでいう保存食としての検食です。

原材料と調理済み食品を食品ごとに50g程度、清潔な袋に密封し、−20℃以下で2週間以上保存する。目的は、万一食中毒が起きたときに、どの食品が原因かを調べられるようにすることです。「捨てるために毎日取り分けている」ように見えて、実は現場を守る保険です。

詳しくは検食・保存食の記事で書いています。

人の管理:月1回の検便・10〜3月はノロも

マニュアルは食品だけでなく、人も管理対象にしています。調理従事者は月に1回以上の検便。臨時職員も含みます。検査には腸管出血性大腸菌を含め、10月から3月の間は月1回以上、またはノロウイルスの検査にも努めるとされています。

加えて、日々の体調確認、手の傷の申告、身だしなみのルールも、このマニュアルの「調理従事者等の衛生管理」が根拠です。検便と健康管理の記事に書いた「下痢をしていたら調理に入らない」も、ここから来ています。

数字は「覚える」より「記録に落とす」

ここまで数字を並べてきましたが、16年やって思うのは、数字を覚えることより、記録に落とすことのほうが大事だということです。

マニュアルは、ほとんどの項目で「記録すること」を求めています。品温、庫内温度、中心温度と時刻、冷却の時刻、保冷設備への搬入・搬出時刻、点検表。記録が残っていれば、事故が起きたときに原因を絞れます。記録がなければ、正しくやっていても証明できません。

現場で使っている点検表は、このマニュアルの別紙点検表がもとになっています。「何のためにこの欄があるのか」が分かると、書き忘れが減ります。

新人がまず覚える3つの数字

全部いっぺんには無理なので、新人さんにはこの3つだけ先に覚えてもらっています。

  • 75℃・1分……加熱の基準。迷ったら測る
  • 10℃以下または65℃以上……置いておく温度。中間に置かない
  • 2時間以内……作ってから食べるまで。段取りはここから逆算

この3つが体に入ると、残りの数字は「同じ考え方の応用」として自然に入ってきます。

まとめ

  • 給食の衛生ルールの出どころは、厚労省の大量調理施設衛生管理マニュアル(1997年策定・2017年最終改正)
  • 対象は300食/750食以上だが、小さい施設も準じて運用している。HACCP義務化(2021年6月)の土台でもある
  • 骨組みは12の数字。受け入れ→下処理→加熱→冷却・保管→検食→人の管理→記録、の流れで覚える
  • 数字を覚えるより、記録に落として1年残すほうが現場を守る

マニュアル自体は厚生労働省のサイトで誰でも読めます。長い文書ですが、この記事の数字を先に頭に入れてから読むと、意外とすんなり入ってきます。衛生でやりがちなミスをまとめた衛生管理NG10選とあわせて読んでもらえると、数字とミスがつながると思います。

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