こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
給食の調理員には、厨房に入る前に毎日必ずやる「儀式」があります。時間にして5分ほど。白衣に着替えて、髪をしまって、全身にコロコロ(粘着ローラー)をかけて、手を洗って——ここまでやって、ようやく厨房の床を踏めます。
業界の外の方には「そこまでやるの?」と驚かれる、この毎朝の5分間。今回は給食現場の身だしなみのリアルを紹介します(※手順・ルールは施設の基準に従う架空の一例です)。
なぜそこまでやるのか——毛髪1本の重さ
理由ははっきりしています。異物混入でいちばん多い常連が「毛髪」だからです。
髪の毛1本は、健康被害という意味では大きな問題にならないことが多い。でも、食事に髪が入っていたときの「もう食べたくない」という気持ちは、誰でも分かると思います。毛髪混入は、体ではなく信頼を傷つける異物なんです。だから給食の身だしなみは、オシャレの話ではなく衛生管理の一部として、毎日同じ基準でやります。
着替えには「順番」がある
白衣への着替えは、実は順番に意味があります。
- 髪をまとめてから帽子(三角巾)をかぶる……髪は1本残らず帽子の中へ。前髪も耳の後ろの毛も、です。帽子から髪がはみ出ていたら、かぶっていないのと同じです
- 帽子をかぶってから白衣を着る……先に白衣を着て後から帽子をかぶると、まとめるときに抜けた髪が白衣の肩に落ちます。「上から下へ」が着替えの基本です
- マスクは鼻までしっかり……口だけ覆うマスクは、していないのと同じ。飛沫と、話すときのツバから食事を守ります
- エプロンは作業に合わせて……下処理用・調理用・洗浄用など、作業や場所で使い分ける現場が多いです。色分けで「今どの作業のエプロンか」が一目で分かるようにします
コロコロの儀式と、鏡と、相棒
着替えが終わったら、粘着ローラーで全身コロコロ。肩、腕、背中、胸、帽子の上まで。白衣に付いた髪やホコリを、厨房に持ち込む前にここで落とします。
ポイントは2つ。鏡の前でやること(自分の目だけでは見落とします)。そして背中は仲間にやってもらうこと。自分では絶対に見えない場所こそ、毛髪が残りやすい場所です。朝の更衣室で背中をコロコロし合う姿は、業界外から見たら不思議な光景かもしれませんが、あれは信頼を守る共同作業です。
手と爪、アクセサリーのルール
- 爪は短く、マニキュアはしない……爪の間は菌がたまりやすく、長い爪は手袋を破ります。マニキュアは剥がれたら異物です
- 時計・指輪・アクセサリーは全部外す……結婚指輪も含めて外す現場がほとんどです。装飾品は「菌の隠れ家」であり「異物の候補」です
- 手荒れ・傷の申告……手に傷があるときは絆創膏を貼って手袋、といった決められた対応をとります。傷の化膿は食中毒菌の温床になるので、隠すのが一番危険です。検便・健康管理の記事で書いた「すぐ申告する文化」はここでも同じです
ポケットとスマホ——「持ち込まない」のルール
意外と知られていないのが、持ち込み物のルールです。
白衣の胸ポケットにボールペンを差したまま調理場に入って、かがんだ拍子に鍋へポチャン——これは異物混入の定番コースです。だからポケットには物を入れない。筆記が必要なら置き場所を決めておく。スマホも基本的に厨房へは持ち込みません。
「身に付けているもの=落ちる可能性があるもの」と考えると、ルールの意味がすっと分かると思います。
行きも帰りも——白衣は厨房の中だけのもの
もうひとつ大事なのが、白衣のまま外に出ないことです。
白衣は「厨房の中だけで着る服」。外を歩けば外の汚れが付き、それを厨房に持ち込むことになります。ゴミ出しなどで一度外に出たら、そのまま調理に戻らず、決められた手順を踏み直します。外履きと厨房内の履き物を分けるのも同じ理屈です。掃除の記事で書いた「厨房をきれいに保つ」は、入ってくる人間の側にも同じだけ求められるわけです。
細かいけどよく聞かれること
- メガネは?……OKですが、ずり落ちて鍋に……を防ぐため、作業前にきちんと調整します。蒸気でくもるのは調理員の宿命で、くもり止めが地味に効きます
- ひげは?……毛髪と同じ扱いで、剃るのが基本です。伸びたひげは抜け落ちる毛です
- 香水・柔軟剤の強い香りは?……NGです。においは食事の一部。強い香りは「においの異物混入」だと考えています
- まつげエクステやカラーコンタクトは?……施設の基準によりますが、「外れて食事に入る可能性があるもの」という物差しで判断されます。迷ったら確認、が正解です
基準は「オシャレかどうか」ではなく、落ちるか・付くか・においがするか。この物差しを持っておくと、初めての現場でも迷いません。
新人さんへ——身だしなみは最速の信頼獲得
新人の頃は、料理の腕で信頼を得ることはできません。でも身だしなみなら、初日から満点が取れます。
帽子から髪が出ていない、コロコロを丁寧にかけている、爪がいつも短い。ベテランはそういうところを本当によく見ています。「この子は基本を大事にする子だ」という評価は、包丁より先に身だしなみで作られる——16年見てきて、これは断言できます。
まとめ:5分間の儀式が信頼を守る
- 毛髪は異物混入の最多常連。身だしなみはオシャレではなく衛生管理
- 着替えは「上から下へ」。髪は1本残らず帽子の中へ
- コロコロは鏡の前で、背中は仲間と。見えない場所こそ危ない
- 爪は短く、アクセサリーは外す、傷は隠さず申告
- ポケットに物を入れない、白衣で外に出ない
- 身だしなみは新人が初日から満点を取れる、最速の信頼獲得法
毎朝同じ5分間を、16年間ずっと繰り返しています。飽きるほど同じことの繰り返しですが、この5分が「安心して食べてもらえる食事」の入口です。明日もまた、鏡の前でコロコロからスタートします。
衛生の基本は衛生管理ミス10選、異物混入の防ぎ方は異物混入を防ぐで詳しく書いています。これから業界に入る方は新人がまず覚えるべき10のこともあわせてどうぞ。


