こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
9月1日は防災の日。台風や地震のニュースを見るたびに、私たち給食の人間が真っ先に考えるのは「もし明日、食材が届かなかったら」です。
高齢者施設の給食は、災害が起きても「今日はお休みします」ができません。利用者さんにとって施設の食事は、1日の栄養のほぼすべて。だから給食の現場は、普段は見えないところで、かなり本気の備えをしています。今回は、業界の外からはまず見えない「災害と給食」の裏側を紹介します。
なぜ給食は止められないのか
高齢者施設の給食は365日、朝・昼・夕と動き続けています。お正月も台風の日も、食事の時間は必ず来ます。
とくに高齢者の場合、1食抜けることのダメージが若い人よりずっと大きいのです。体力が落ちる、薬が飲めない(食後に飲む薬はたくさんあります)、脱水が進む。災害のストレスがかかっているときほど、いつも通りの温かい食事が体と心を守ります。
だから災害への備えは、給食の仕事の一部です。「起きてから考える」では間に合いません。
施設ではこんなものを備蓄している
備蓄の内容や量は施設の方針や自治体の指針によって違いますが、目安としてよく言われるのが3日分です(※以下は架空の一例です。実際の品目・数量は各施設の基準に従います)。
- 水……飲み水だけでなく、調理用も。実は調理用の水がいちばんかさばります
- 主食……水やお湯を注ぐだけで食べられるアルファ化米、パックごはんなど
- おかず……レトルトや缶詰。温めなくても食べられるものが基本です
- 高齢者向けの非常食……おかゆ、やわらかいおかず、とろみ剤。ここが高齢者施設ならではです
- 熱源……カセットコンロとボンベ。電気もガスも止まったときの生命線です
- 使い捨ての食器・ラップ……断水したら食器が洗えません。お皿にラップを敷いて使えば、洗い物ゼロで衛生も守れます
「乾パンが山積み」というイメージとは、だいぶ違うと思います。噛む力・飲み込む力が弱い方でも食べられることが、高齢者施設の備蓄の絶対条件です。
備蓄は「置いておくだけ」ではダメ——ローリングストック
備蓄品には賞味期限があります。買って倉庫に積んで安心していると、いざというとき全部期限切れ——これが備蓄の一番ありがちな失敗です。
そこで現場ではローリングストックという考え方を使います。期限が近づいた備蓄品から普段の給食に組み込んで消費し、使った分を買い足す。備蓄を「保管」ではなく「循環」させるやり方です。
ここで活躍するのが、実は事務の仕事です。備蓄品も在庫のひとつなので、棚卸のときに数量と賞味期限をチェックします。「何が・いくつ・いつまで」を一覧にしておけば、期限切れの山は防げます。地味ですが、災害対策の半分は事務作業だと私は思っています。
ライフラインが止まったら——現場の頭の切り替え
災害と一口に言っても、現場で起こるのは「電気・ガス・水道・物流のどれが止まるか」です。それぞれで動き方が変わります(※対応は架空の一例です)。
- 停電……冷蔵庫・冷凍庫はむやみに開けない。傷みやすいものから先に使い、加熱に頼らない献立に切り替えます
- 断水……洗い物を出さないことが最優先。使い捨て食器とラップ食器に切り替え、調理も「水を使わない」を軸に組み立てます
- ガス停止……カセットコンロの出番です。全部は無理でも、温かい汁物を一杯つけるだけで食事の力は全然違います
- 物流ストップ……台風や大雪で食材が届かないことは、実は災害級でなくても起こります。在庫と備蓄で献立を組み直す、普段の食材管理が効いてくる場面です
冷たいものばかりの非常食のなかで、温かい味噌汁が一杯あるだけで、人はほっとします。「温かいものを一品」は、非常時の献立で私が一番大事にしたい部分です。
非常時こそ「いつもの配慮」を省略しない
忘れてはいけないのが、アレルギー対応と食事形態です。
災害でバタバタしているときも、アレルギーのある方に原因食材を出してはいけないのは普段と同じ。きざみ食やペースト食が必要な方に常食を出せば、窒息や誤嚥につながります。非常時は「特別だから仕方ない」が通用しない部分こそ、命に直結します。
だから誰が何の対応かがひと目で分かる名簿や食札の仕組みは、災害時にこそ真価を発揮します。ここは笑いどころなしの、真剣勝負の部分です。
家庭でも使える「給食式」の備え方
この考え方は、そのまま家庭の防災に使えます。
- ローリングストック……非常食を特別扱いせず、レトルトや缶詰を少し多めに買って、食べながら買い足す
- 水は1人1日3リットル×3日分……飲み水と調理用の合計の目安です
- カセットボンベを多めに……コンロ本体があってもボンベがなければ使えません
- ラップとポリ袋……お皿に敷けば洗い物なし。覚えておくと本当に役立ちます
ご家庭に噛む力の弱いおじいちゃん・おばあちゃんがいるなら、その人が食べられる非常食があるかを一度確認してみてください。ここは見落とされがちで、いちばん大事なところです。
まとめ:備えも「給食の仕事」のうち
- 高齢者施設の給食は災害でも止められない。だから備えは仕事の一部
- 備蓄は3日分が目安。高齢者向けは「食べられる形」であることが絶対条件
- ローリングストックと棚卸で、備蓄を「循環」させる
- 停電・断水・ガス停止・物流ストップ、それぞれの切り替えを頭に入れておく
- アレルギーと食事形態の配慮は、非常時こそ省略しない
災害はない方がいい。でも「備えてあるから大丈夫」と思える厨房は、普段の仕事まで落ち着きます。食事は毎日のことだからこそ、もしもの日の一食まで含めて給食の仕事なんだと、16年やってきて思います。
1年の現場の動きは給食現場の1年カレンダーで、食材の在庫管理は給食の食材管理で書いています。棚卸のやり方は棚卸が早く正確になる管理術、食事形態の基本は食事形態のリアルもあわせてどうぞ。


