「高齢者施設の給食は薄味」——よく知られていますが、ただ塩を減らすだけでは「味気ない」「食が進まない」ものになってしまいます。減塩と美味しさを両立させるには、コツがあるんです。
高齢者施設の給食を委託会社の社員として16年やってきたボク(キッチンのりちゃん)が、減塩でも「美味しい!」と言ってもらうための工夫を本音でお話しします。※事例は架空の一例です。
なぜ減塩が必要なのか
- 高血圧・むくみの予防……塩分の摂りすぎは血圧に直結。高齢者は特に配慮が必要
- 腎臓など体への負担を減らす……持病のある方も多く、塩分管理は健康の土台
- 施設の栄養基準を守る……管理栄養士さんの立てた基準に沿って作るのが委託会社の役割
とはいえ、健康のためでも「美味しくない」と食べてもらえなければ意味がありません。ここからが腕の見せどころです。
コツ①:とにかく「きちんと出汁をとる」
減塩で一番大事なのは、これに尽きます。きちんと出汁をとること。
昆布、かつお節、煮干し——しっかりとった出汁には「旨味」がたっぷり含まれています。この旨味が効いていると、塩分が少なくても「物足りない」と感じにくくなる。つまり旨味で塩を減らすのが、減塩調理の王道なんです。
- 顆粒だしに頼りきらず、素材からとった出汁を効かせる
- 昆布とかつおの合わせ出汁は旨味の相乗効果でさらに深い味に
- 干し椎茸やあさりなど、素材そのものの旨味も活用する
「薄味なのに美味しい」の秘密は、塩の代わりに旨味で満足感を出すこと。ここに手を抜かないのがプロの減塩です。
コツ②:酸味・薬味・香りで「味の輪郭」をつける
塩を減らすと味がぼやけがち。そこを補ってくれるのが酸味・薬味・香りです。
- 酸味……酢、レモン、ゆず、梅。さっぱりして塩分控えめでも満足感が出る
- 薬味・香味野菜……しょうが、大葉、みょうが、ねぎ。香りが加わると薄味でも物足りなさが消える
- 香ばしさ……ごま、焼き目、炒った香り。香りの要素は減塩の強い味方
塩をひとつまみ足す代わりに、レモンをひと搾り。この発想が減塩をぐっと美味しくします。
コツ③:メリハリをつける(全部を薄味にしない)
すべての料理を均一に薄味にすると、食事全体がぼやけます。そこで一品だけ少ししっかり味をつける。
主菜はきちんと味を決めて、副菜はだしを効かせた薄味に。この味のメリハリがあると、全体の塩分は抑えつつ「食べた満足感」が生まれます。献立を組む段階からこのバランスを意識します(献立の組み立て方もどうぞ)。
コツ④:下ごしらえで素材の味を引き出す
- 野菜は旨味と甘みを引き出す……じっくり火を入れると自然な甘みが出て、塩がいらなくなる
- 温かいうちに味をなじませる……冷める時に味が染みるので、薄味でもしっかり感じられる
- 提供直前の香りづけ……できたての香りは、それ自体がごちそう(盛り付け・配膳のコツ)
出汁の取り方——現場でやっている基本
「きちんと出汁をとる」と言っても、大量調理では家庭とは勝手が違います。ボクが現場でやっている取り方を書いておきます。
昆布とかつおの合わせ出汁
- 昆布は水から……最初から入れて、じっくり温度を上げていく。急がない
- 沸騰前に昆布を引き上げる……煮立たせると、ぬめりと雑味が出ます
- かつお節は火を止めてから……沸騰したお湯に入れて、すぐ火を止める。グラグラ煮ない
- こすときは押さえない……絞ると濁って渋みが出ます。自然に落ちるのを待つ
大量だと「早く出したい」と思って強火にしがちですが、ここで急ぐと出汁が濁って苦くなる。結果、味が決まらず塩に頼ることになります。急がば回れです。
時間がない日の工夫
- 前日に取っておく……冷まして冷蔵。翌朝は温めるだけ
- 煮干しは水出し……前夜から水に浸けておくだけ。火を使わず旨味が出ます
- 顆粒だしと併用する……全部本出汁は無理な日もある。ベースは本出汁、量を顆粒で補うのは現実的な選択です
旨味を足せる「隠れた食材」
出汁以外にも、旨味を持っている食材はたくさんあります。これらを献立に組み込むと、自然に減塩できます。
- 干し椎茸……戻し汁ごと使う。煮物のコクが段違いになります
- 玉ねぎ……じっくり炒めると甘みと旨味が出る。汁物のベースに
- トマト……グルタミン酸の宝庫。洋風メニューの塩を減らせます
- きのこ類……えのき、しめじ。加えるだけで出汁が出ます
- あさり・しじみ……汁物なら、これだけで塩がほとんどいりません
ポイントは「旨味は足し算できる」ということ。昆布+かつお、そこに椎茸や野菜が加わると、相乗効果でぐっと深くなります。
減塩でやりがちな失敗
ボクが実際にやってしまった失敗も書いておきます。
- ただ塩を減らしただけ……当然「味がない」と言われました。減らすなら、何かで補わないとダメ
- 全部を薄味にした……献立全体がぼやけて、何を食べたか分からない食事に
- 出汁を手抜きした日に減塩した……これは最悪の組み合わせ。旨味も塩気もない
- 酢を入れすぎた……酸味は便利ですが、入れすぎると酸っぱいだけ。高齢者には特に強く感じられます
減塩は「引き算」ではなく「置き換え」。ここを間違えると、健康にはよくても食べてもらえない食事になってしまいます。
「薄い」と言われたときの対処
それでも「味が薄い」と言われることはあります。そんなときの手は3つ。
- 提供直前に香りを足す……ごま、刻みねぎ、ゆずの皮。香りは満足感に直結します
- 一品だけ味を強める……全部を濃くせず、主菜だけしっかり。メリハリで解決することが多いです
- 温度を上げる……ぬるいと味を感じにくくなります。熱いものは熱く出すだけで印象が変わります
管理栄養士さんと相談しながら、基準の範囲内でできる工夫を探すのが現場の仕事です(多職種連携のリアル)。
まとめ
減塩でも美味しくするコツは、「きちんと出汁をとって旨味で満足感を出す」のが土台。そこに酸味・薬味・香りと味のメリハリを重ねれば、「薄味なのに美味しい!」が実現します。塩を減らすのではなく、旨味で置きかえる——これが16年やってきて行き着いた答えです。


