こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
この仕事を始めてから、秋が深まると必ず気になることがあります。手荒れです。指先がひび割れ、関節の内側が赤くなり、ひどいと手洗いのたびにしみる。16年やっても、毎年この季節はやってきます。
今日は給食調理員の手荒れについて書きます。ただの「肌の悩み」の話ではありません。給食の現場では、手荒れは衛生の問題であり、ルールの問題でもあるからです。本格的に荒れる前の今のうちに、対策を整理しておきます。
※体の症状に関する記述は一般的な情報です。つらい症状が続くときは皮膚科を受診してください。
なぜ給食の手は、こんなに荒れるのか
理由は単純で、手を洗う回数が圧倒的に多いからです。作業に入る前、生の肉や魚を触った後、トイレの後、手袋を替えるたび。1日に何十回と洗い、そのたびに石けんとアルコールで皮脂を落とします。
これに、現場ならではの負担が重なります。
- 洗剤との接触……食器洗い、器具洗浄、床の清掃。素手でなくても、手袋の隙間から洗剤は入ります
- 手袋の蒸れ……長時間のゴム手袋は、中が汗でふやけます。ふやけた皮膚は傷つきやすい
- 冷たい水と熱い湯の往復……野菜を洗う冷水と、洗い場の熱湯。温度差は皮膚の大敵です
- 冬の乾燥……10月を過ぎると水が冷たくなり、暖房で空気も乾きます。ここから一気に悪化します
つまり給食の手荒れは、「衛生を守るための行動そのもの」が原因です。手洗いをサボれば治りますが、それは選択肢にありません。だから付き合い方を覚えるしかないんです。
手荒れは「見た目の問題」ではなく「衛生の問題」
ここは真面目に書きます。荒れた手が危ないのは、痛いからではありません。荒れた皮膚や傷には、黄色ブドウ球菌がすみつきやすいからです。
黄色ブドウ球菌は、人の皮膚や鼻にふつうにいる菌ですが、切り傷や手荒れが原因の化膿した部分に特に多く存在します。この菌が食品に移って室温で増えると、エンテロトキシンという毒素を作ります。やっかいなのは、この毒素が熱に強いこと。菌は加熱で死んでも、毒素は残ります。
食べてから30分〜6時間(平均3時間)という短い時間で、吐き気や嘔吐が起こります。この「短さ」が黄色ブドウ球菌の特徴で、昼食で出せば午後には施設中で症状が出る、ということが起こり得ます。
だから、大量調理施設衛生管理マニュアルには、手指に化膿創がある人を調理作業に従事させないことがはっきり書かれています。これは現場の努力目標ではなく、給食が守るべきルールです。他の基本ルールは給食現場で絶対NGな衛生管理ミス10選にまとめています。
現場でのルール|隠さない、塗らない、手袋に頼りきらない
うちの現場で徹底しているのは、この3つです。
① 傷は必ず申告する
ひび割れが深くなった、指先が切れた、赤く腫れてきた。この段階で責任者に言うのがルールです。申告すれば、絆創膏の上から手袋をして作業を続ける、あるいは食品に直接触れない持ち場に替わる、と対応が決まります。
いちばん危ないのは、「これくらい大丈夫」と隠すことです。人手が足りない日ほど言い出しにくいのは分かります。でも、言わずに作業した結果が食中毒なら、その日の人手どころではなくなります。検便・健康管理のリアルで書いた「すぐ申告」は、手にも当てはまります。
② 作業中にハンドクリームは塗らない
意外と知られていないルールです。厨房では、作業中にハンドクリームを塗りません。クリームが食品に移る異物の問題と、香料が料理に移る問題があるからです。手袋の下に塗るのも同じ理由でしません。
塗るのは休憩の前、そして退勤後。作業に戻る前はもう一度しっかり手を洗います。身だしなみの決まりごとは給食調理員の身だしなみのリアルにまとめました。
③ 手袋は「魔法の道具」ではない
荒れているから手袋をすればいい、と思われがちですが、手袋は手洗いの代わりにはなりません。手袋の外側は素手と同じように汚れますし、破れていることに気づかないこともあります。
手袋をする前に手を洗い、外した後にも手を洗う。手袋は「手洗いに足すもの」であって「引くもの」ではない。これは新人さんに最初に伝えることのひとつです。
16年でたどり着いた、手荒れケアの習慣
治す魔法はありませんが、悪化させない習慣はあります。ボクが続けているものと、皮膚科の先生方が一般に勧めている方法が重なる部分を書きます。
- 手洗いはぬるま湯で……熱い湯は皮脂を奪います。厨房で選べる範囲で、なるべく熱すぎない温度で洗います
- 拭くときは「押さえ拭き」……ペーパータオルでゴシゴシこすらない。押し当てて水分を取ります。地味ですが効きます
- 洗い場は二重手袋……綿の手袋をしてからゴム手袋。汗を綿が吸ってくれるので、ふやけがぐっと減ります
- 退勤したら、まず保湿……着替えるより先に塗る。乾いてひび割れる前に塗るのがコツで、「荒れてから塗る」では遅いです
- 寝る前はワセリンと綿手袋……ひどい時期の定番です。翌朝の指先が明らかに違います
- ハンドクリームは職場に持ち込まない……作業中に塗らないルールを守るには、「そこに無い」のがいちばん確実です
そして、それでも治らないときは皮膚科へ。市販の保湿で追いつかない手荒れは、「手湿疹」として治療の対象です。塗り薬で落ち着く人は多いですし、何より荒れた手のまま働き続けるほうが、現場にとってもリスクです。受診は自分のためであり、職場のためでもあります。
手荒れの季節は「9月から先手を打つ」
手荒れが本格化するのは、水が冷たくなる10月から3月です。しかも冬はノロウイルス対策で手洗いと消毒がさらに増える。冬の給食メニューの工夫でも書きましたが、冬の厨房は手にとっていちばん厳しい環境です。
だからボクは、荒れ始める前の9月から保湿の習慣を戻します。皮膚が元気なうちに守り始めるほうが、荒れてから立て直すより圧倒的に楽です。かぼちゃの煮物と同じで、崩れてから直すより、崩さない段取りが先。手も同じです。
新人さんへ|手荒れは根性で治りません
この仕事を始めたばかりの方に、これだけは伝えたいです。
- 手荒れは、あなたが弱いからではない……手洗いをきちんとやっている証拠です。ベテランも全員荒れます
- 我慢して隠すのがいちばん危ない……申告は迷惑ではなく、現場を守る行動です
- ケアも仕事のうち……包丁を研ぐのと同じ。道具の手入れです
- ひどければ皮膚科へ……治る手荒れを我慢し続ける必要はありません
新人さんが最初に覚えることは給食の新人がまず覚えるべき10のことにまとめていますが、手のケアはその11番目だと思ってください。
まとめ
- 給食の手荒れは「衛生を守る行動そのもの」が原因。手洗いを減らす選択肢はないので、付き合い方を覚える
- 荒れた手や傷には黄色ブドウ球菌がすみつきやすい。毒素は熱に強く、発症は30分〜6時間と早い
- マニュアルでは化膿創のある人は調理作業に従事させない。傷は必ず申告する
- 作業中にハンドクリームは塗らない。塗るのは休憩前と退勤後。手袋は手洗いの代わりにならない
- ケアはぬるま湯・押さえ拭き・二重手袋・退勤直後の保湿・寝る前のワセリンと綿手袋。治らなければ皮膚科へ
- 本番は10〜3月。9月から先手を打つ
荒れた手は、まじめに手を洗ってきた人の手です。ただ、そのまじめさを衛生事故につなげないために、ケアと申告がある。16年たっても手荒れは治りませんが、付き合い方だけは上手くなりました。


