こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
「ソフト麺」「揚げパン」「ミルメーク」。この3つの言葉だけで、教室の匂いまで思い出すという方は多いんじゃないでしょうか。
私は今、高齢者施設の給食を作る側の人間です。だからこそ、あの懐かしいメニューを「思い出」ではなく「大量調理の理屈」として見ることができます。調べてみると、どれもちゃんと理由があって生まれた発明品でした。
今日は、あの頃の給食がなぜあの形だったのかを、作る側の目線で解説します。
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大前提:「懐かしい給食」は世代でまるで違う
これは現場に入ってから気づいたことです。懐かしい給食は、世代によって中身がまったく違います。
- 今の入居者さん世代(80〜90代)…脱脂粉乳、鯨の竜田揚げ、コッペパン
- 私たち世代(30〜40代)…ソフト麺、揚げパン、ミルメーク、冷凍みかん
- 今の子どもたち…ごはん中心、地場産の食材、アレルギー対応が当たり前
高齢者施設の行事食で「懐かしいメニューを出そう」となったとき、ここを外すと誰にも刺さりません。私たちが懐かしいと感じるものと、入居者さんが懐かしいと感じるものは、30年以上ずれているからです。行事食の考え方は給食の行事食のリアルにまとめています。
ソフト麺|「のびない麺」を本気で追求した発明品
正式名称は「ソフトスパゲッティ式めん」。1960年ごろに登場しました。
戦後の給食はパン食が中心でしたが、パサついたパンを食べきれない子どもが多かったそうです。そこで同じ小麦粉を使い、牛乳と一緒でも食べられる麺として開発されたのがソフト麺でした。うどんや中華麺のような汁の麺は牛乳と合わない、という事情もあったといいます。
作る側から見ると、あの袋入りの形が本当によくできています。麺を大量調理でいちばん困らせるのは「のび」です(→給食の麺類のリアル)。袋のまま配れば配膳が速く、食べる直前に自分で開けて汁に入れるから、のびが最小限で済む。「のびる」という問題に対する、当時の完璧な回答だったわけです。
揚げパン|硬くなったコッペパンを救うために生まれた
揚げパンの発祥は1952年ごろ、東京都大田区の嶺町小学校とされています。調理を担当していた篠原常吉さんが、風邪で休んだ子どもにパンを届けるにあたって、硬くなったパンをおいしく食べてもらおうと油で揚げて砂糖をまぶしたのが始まりだと伝えられています。
揚げ物として見ても理にかなっています(→給食の揚げ物のリアル)。パンは肉や魚と違って水分が少ないので、短時間でからっと揚がり、油も汚れにくい。しかも揚げることでエネルギー量が上がる。「余りもの」を「人気メニュー」に変えた大逆転です。
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ミルメーク|残食対策の元祖
ミルメークは1967年、大島食品工業が「コーヒー牛乳の素」として発売したものです。きっかけは学校給食会からの依頼で、脱脂粉乳から牛乳へ切り替わるなかで、子どもに残さず飲んでもらうための商品開発でした。
これ、現場の言葉に置き換えると残食対策そのものです(→給食の残食を減らす工夫)。「栄養があるから飲みなさい」ではなく「おいしくして飲んでもらう」。この発想は、今の高齢者施設でもまったく同じです。
冷凍みかん|衛生と保存を両立させた答え
冷凍みかんは、もともと給食のために作られたものではありませんでした。1956年の夏、東海道本線・小田原駅の売店で「夏に売れる商品を」という発想から生まれ、のちに給食のデザートとして広まった食べものです。
これも作る側にはありがたい食材です。生の果物は洗浄と皮むきに手間がかかり、夏場はとくに衛生面で気を使います。冷凍なら通年で使えて保存も効き、そのまま冷たいデザートになる。夏の冷たいデザートは今でも強い味方です(→高齢者施設の夏メニュー)。
わかめごはん|「あとから混ぜる素」という発明
大量炊飯で具入りのごはんを炊くと、どうしても味と具のムラが出ます(→給食のごはんは何kg炊く?)。釜の底と上で、まったく別のごはんができあがってしまうんです。
その点、炊いたあとに混ぜる「素」なら全体を均一に混ぜられるので、味がぶれません。子どもに人気だっただけでなく、現場が助かるからこそ定番になったメニューでもあります。
お米のムース|カップデザートが定番になる理由
給食の定番デザートといえば、カップに入ったゼリーやムース。あれが強いのは「配りやすい・数えやすい・アレルギー表示が明確」という三拍子が揃っているからです。
手作りのデザートはたしかにおいしいのですが、食数が増えるほど盛り付けの時間と衛生管理が重くなります。カップデザートは、その両方を一気に解決してくれる存在なんです。
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高齢者施設で「懐かしい給食」を出すときの注意
ここは真面目に書きます。懐かしいメニューはとても喜ばれますが、安全が最優先です。
- 食事形態を必ず確認する…揚げパンやコッペパンは水分が少なくパサつきやすい食品です。きざみ食・ソフト食の方にそのまま出すわけにはいきません(→高齢者施設の食事形態のリアル)
- 冷たさと硬さに注意する…冷凍みかんは凍ったままだと、噛む力の弱い方には食べにくい。半解凍にする、小さく切るといった対応が要ります
- アレルギーの確認を飛ばさない…「昔からあるメニューだから」は理由になりません(→アレルギー対応食の作り方)
懐かしい味は、記憶と一緒に食欲を呼び戻してくれます。だからこそ、安全に届けるところまでが仕事だと思っています。
まとめ
- 懐かしい給食は世代でまったく違う。入居者さんと私たちでは30年以上ずれている
- ソフト麺は「のび」対策、揚げパンは「硬くなったパン」対策。どれも現場の困りごとから生まれた発明品
- ミルメークは残食対策の元祖。「おいしくして食べてもらう」という発想は今も変わらない
- 高齢者施設で再現するときは、食事形態・温度・アレルギーの確認を必ず先に
あの頃おいしかったものには、ちゃんと理由がありました。作る側になって16年、あらためてそう思います。


