給食の魚のリアル|骨・崩れる・臭い・ヒスタミンとの戦い【大量調理シリーズ第11弾】

給食の魚のリアル|骨・崩れる・臭い・ヒスタミン|キッチンのりちゃん 調理スキル

こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。

大量調理シリーズ、11本目は魚です。ごはん、たまご、揚げ物、煮物と食材別に書いてきましたが、魚だけ後回しにしていました。理由は単純で、魚は「クレーム」と「事故」が一番近い食材だからです。書くなら、きちんと書きたかった。

骨が出れば苦情になり、煮崩れれば見た目で残され、生臭ければ手がつかない。そして魚には、加熱しても消えない食中毒の原因があります。今日はこの4つ、骨・崩れる・臭い・ヒスタミンとの戦いを、高齢者施設の厨房から書きます。

この記事でわかること

  • 魚が大量調理で難しい4つの理由
  • 焼き魚・煮魚の崩さない扱い方と、骨取り魚の注意
  • ヒスタミンを防ぐ温度管理

魚が難しい4つの理由

  • 骨……高齢者施設では、骨は誤嚥や口の中のけがに直結します。だから「骨取り魚」(加工段階で骨を抜いた切り身)が主流ですが、それでも小骨がゼロとは限りません
  • 崩れる……煮魚は釜の中で動かせば崩れ、焼き魚は皮が天板にくっついて身が割れる。100切れを盛り付けるころには、きれいな切り身が半分になっていることもあります
  • 臭い……魚の生臭さは、鮮度が落ちるほど強くなります。臭いが出た魚は、味付けでごまかしきれません。「魚の日は残食が多い」の原因の一つです
  • ヒスタミン……さば、さんま、いわし、まぐろ、ぶりなどの赤身・青魚を常温に置くと、魚の中でヒスタミンが作られます。これは加熱しても壊れません。「火を通せば安全」が通用しない、魚ならではのリスクです

対策1:骨取り魚を「信じすぎない」

骨取り魚のおかげで、高齢者施設で魚を出せる回数は格段に増えました。ただ、加工の骨取りは100%ではありません。私の現場では、骨取り魚でも検品のときに切り身の端を指で触ることにしています。数切れ触って、硬いものがあれば、そのロットは全部見ます。

形態を落とす(きざみ・ソフト)ときは、身をほぐす工程が入るので、ここでもう1回骨を確認します。「加工済みだから安全」という思い込みが、異物混入の一番の入口です。

骨取り魚は業務用として市販されていて、家庭でも同じものが手に入ります。

対策2:焼き魚は「並べたら動かさない」

大量の焼き魚は、スチームコンベクションオーブン(スチコン)で焼きます。コツは3つです。

  • ホテルパンにクッキングシートを敷き、皮目を上にして、隙間を空けて並べる……詰めすぎると蒸気が通らず、焼きムラが出ます
  • 焼いている途中でひっくり返さない……家庭のグリルとは違い、スチコンは上下から熱が入ります。触るほど崩れます
  • 中心温度は75℃で1分以上を測って記録する……マニュアルどおり。一番厚い切り身の中心に温度計を刺します

もう1つ、魚の種類で火の入り方が違います。成分表で比べると、さんま(皮つき・生)は100gあたり脂質25.6g、しろさけ(生)は4.1g。脂の多いさんまやさばは多少焼きすぎてもしっとりしていますが、鮭やたらのような脂の少ない魚は、加熱しすぎるとすぐパサつきます。鮭を出す日は、焼き上がりから配膳までの時間を短くするか、塩麹や味噌に漬けてから焼くと、パサつきがだいぶ抑えられます。

対策3:煮魚は「煮汁を沸かしてから入れ、動かさない」

煮魚の崩れは、ほとんどが「動かした」ことが原因です。

  • 煮汁を先に沸かしてから魚を入れる……表面が先に固まり、崩れにくくなります。冷たい煮汁から煮ると、身がほどけます
  • 釜で煮るより、ホテルパンに並べてスチコンで煮る……100切れを釜に入れると、下の切り身は重みで崩れます。並べて煮れば、1切れずつ形が残ります
  • 落とし蓋(クッキングシート)をして、途中で触らない……煮汁を回しかけたくなりますが、我慢です
  • 味は冷めるときにしみる……煮物と同じです。詳しくは煮物の記事に書きました

しょうがや酒は臭み消しとして効きますが、一番の臭み対策は鮮度と温度管理です。臭いが出てから消すより、出さないほうが確実です。

対策4:ヒスタミンは「温度」でしか防げない

ここが、この記事で一番伝えたいところです。

ヒスタミン食中毒は、赤身・青魚に含まれるヒスチジンが、菌の働きでヒスタミンに変わることで起きます。常温に置く時間が長いほど、凍結と解凍を繰り返すほど、増えます。そして一度できたヒスタミンは、加熱しても、調理でも取り除けません。

症状は、食べた直後から1時間以内の顔の赤み、じんましん、頭痛など。魚アレルギーと間違われやすいのも特徴です。高齢者施設で「魚を食べたら顔が赤くなった」が起きたら、アレルギーを疑う前に、その魚の温度管理を疑ってください。

現場でやることは、マニュアルの数字そのままです。

  • 検収で品温を測る……魚介類は5℃以下、冷凍なら−15℃以下で受け入れて記録。検収の記事の「品温実測」は、魚のためにあると言ってもいいです
  • 解凍は冷蔵庫で……常温解凍はしない。急ぐときは流水で、袋のまま
  • 出したらすぐ調理……下処理で常温に置く時間を最短にする。魚を出しっぱなしにして別の作業に行かない
  • 再凍結しない……解凍して使わなかった分を凍らせ直すのは、ヒスタミンの温床です

マニュアルの数字全体は衛生マニュアルを数字で読む記事にまとめています。

それでも魚を出す理由

ここまで難しさばかり書きましたが、高齢者施設で魚を出す価値は大きいです。成分表を見ると、しろさけは100gあたりたんぱく質22.3g、ビタミンD 32.0μg。たんぱく質は肉に劣らず、ビタミンDは骨と筋肉に関わる栄養素で、高齢者に不足しがちなものです。そして何より、魚の日は食堂の反応が違います。「今日は焼き魚か」と喜ぶ声が、肉の日より多い。世代的に、魚が食卓の中心だった人たちです。

食事形態を落とすときも、魚はほぐしやすく、やわらかく仕上げやすい食材です。食事形態の記事で書いたソフト食は、魚が一番作りやすいと私は思っています。

秋の献立での魚の出番

  • さんまの塩焼き……秋の顔ですが、骨が多いので高齢者施設では骨取りの開きや蒲焼で出すことが多いです。丸ごと1尾は、常食の人にも慎重に
  • 鮭のちゃんちゃん焼き……味噌と野菜で包むので、鮭のパサつきが目立ちません。スチコンで並べて一気に
  • さばの味噌煮……煮魚の王道。骨取りさばの切り身を並べ煮にすれば、崩れずに100切れ出せます
  • たらの煮付け・あんかけ……冬に向けて。白身は崩れやすいので、煮汁を沸かしてから、動かさず

さばの味噌煮を崩さず出せるのは、骨取りの切り身があるからです。

残食を減らす考え方は残食の記事に書いています。

魚の確認表:届いてから出すまで

魚は、骨・崩れ・におい・ヒスタミンと、気をつけることが工程ごとに違います。届いてから提供するまでの確認を、1枚の表にまとめました。

工程 確かめること 理由・根拠
検収 品温(生鮮魚介類は5℃以下が目安)、においや色、ドリップの量 大量調理施設衛生管理マニュアルの保存温度の目安。ヒスタミンは温度が上がると増える
保管 すぐ冷蔵庫へ。下の段に置く ドリップでほかの食材を汚さない
下処理 骨取り魚でも指でなでて骨を探す 骨取り加工でも残ることがある
加熱 中心温度75℃で1分以上を3点以上で確かめる マニュアルの加熱の基準
盛り付け 形態ごとに骨と皮の扱いを確かめる きざみ・ソフトでは皮が口に残りやすい

ヒスタミンは加熱で消えない

さば・いわし・まぐろなどの赤身の魚で起きやすいヒスタミンによる食中毒は、一度できたヒスタミンが加熱しても分解されにくいのが特徴です。だから、焼く・煮るの段階ではなく、届いてから冷蔵庫に入れるまでの温度で防ぐしかありません。検収のときに「少しぬるい」と感じたら、受け取る前に責任者に相談します。

検収の流れは検収のリアル、温度計の確かめ方は厨房の温度計の記事にまとめています。

まとめ

  • 魚の難しさは骨・崩れる・臭い・ヒスタミンの4つ
  • 骨取り魚でも検品で触る。形態を落とすときにもう1回
  • 焼き魚も煮魚も「並べたら動かさない」。脂の少ない魚はパサつきに注意
  • ヒスタミンは加熱で消えない。品温・冷蔵解凍・出したらすぐ調理・再凍結しない
  • それでも魚の日は喜ばれる。たんぱく質とビタミンDの供給源でもある

大量調理シリーズの土台は大量調理の段取りの記事にあります。魚は、段取りより「触らない我慢」と「温度」の食材です。次に魚を出す日、切り身の端を指で触るところから始めてみてください。

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