こんにちは、キッチンのりちゃんです。委託給食会社で調理と事務をやって16年になります。
給食で人気メニューの上位に必ず入るのが揚げ物です。唐揚げ、天ぷら、フライ、コロッケ。献立表に載っているだけで「今日は唐揚げだね」と声をかけてもらえる、現場のエース選手です。
ただ、作る側からすると、揚げ物は大量調理でいちばん気を使うメニューのひとつでもあります。今回は、100食規模で揚げ物を作るときのコツと、業界の外からは見えない油の管理の話を書いていきます。
大量の揚げ物はなぜ難しいのか
家庭の揚げ物と大量調理の揚げ物、いちばんの違いは油の温度が落ちることです。
冷たい食材を一度にたくさん入れると、油の温度が一気に下がります。温度が下がったまま揚げると、衣が油を吸ってべちゃっと重くなり、色は付いているのに中まで火が通っていない——という揚げ物の失敗の典型コースに入ります。
だから大量調理では、一度に入れる量を欲張らないことが鉄則です。急いでいるときほどたくさん入れたくなりますが、結果的に1回ごとの仕上がりが悪くなり、揚げ直しでかえって時間がかかります。「急がば回れ」が一番よく当てはまるのが揚げ物だと思っています。
頼れる相棒、フライヤー
給食の厨房には業務用のフライヤー(揚げ物専用の機械)があります。温度を設定すれば自動で保ってくれるので、大量の揚げ物はこれが主力です。
それでも「設定温度=油の実際の温度」とは限りません。食材を入れれば温度は下がりますし、機械の癖もあります。温度計の数字だけでなく、衣の散り方、泡の出方、音で油の状態を見る——ここは経験がものを言う部分で、新人さんにまず覚えてほしい感覚のひとつです。
「揚げ色」で判断しない。中心温度で判断する
ここは真剣な話です。揚げ物の食中毒対策で一番大事なのは、見た目の揚げ色ではなく中心温度で加熱を確認することです。
大量調理の現場では、中心温度計を刺して中心が75℃以上・1分以上(基準は施設のルールに従います)を確認し、記録に残します。表面がきつね色でも、中が冷たいことは普通にあり得ます。特に鶏肉や厚みのあるフライは要注意です。
「たぶん大丈夫」は揚げ物には通用しません。測って、確認して、記録する。地味ですが、これが給食の揚げ物の土台です。
提供時間から逆算する段取り
揚げ物の段取りは、他のメニュー以上に「逆算」が効きます(※時間は架空の一例です)。
- 衣付けは流れ作業で……粉→卵→パン粉の列を作って一気に進めます。ここで手が止まると揚げ工程全体が遅れます
- 揚げる順番を決めておく……同じ油で揚げるなら、香りや色が移りにくいものから。野菜を先に、肉や魚を後に、が基本です
- 提供時間に合わせて揚げ終える……揚げ物は時間との勝負で、揚げたてから遠ざかるほど衣が湿気ていきます。早く揚げすぎないことも大事な技術です
- 揚げ上がりの置き方……重ねると蒸気で衣がふやけます。網やバットに立てかけ気味に並べて、蒸気の逃げ道を作ります
大量調理の段取りの考え方は大量調理のコツで詳しく書いていますが、揚げ物はその応用問題のようなメニューです。
高齢者施設ならではの揚げ物の工夫
高齢者施設では、揚げ物をそのまま出せない方がたくさんいます。硬い衣は噛む力・飲み込む力が弱い方には危ないからです。それでも「揚げ物の日」をあきらめないための工夫があります。
- 衣は薄めに……ザクザクの厚い衣より、薄くやわらかい衣のほうが食べやすい。天ぷらなら衣を薄く、フライなら細かいパン粉を使います
- 揚げてから煮る……揚げ浸しや煮込みカツのように、揚げたあとに出汁を含ませると衣がやわらかくなり、味もしみて一石二鳥です
- あんをかける……とろみのあるあんは、飲み込みを助けてくれます。甘酢あんの唐揚げは食べやすさと人気を両立できる定番です
- きざみ・ソフト食への展開……きざんでからあんでまとめる、ソフト食はムース状の食材で形を作るなど、形態ごとに「揚げ物の日」を届けます
常食の方と同じ献立名で、それぞれが食べられる形にする。食事形態の作り分けと同じ考え方が、揚げ物にもそのまま生きてきます。
業界の外から見えない「油の管理」
揚げ物の裏側には、油の管理という仕事があります。
油は使うたびに疲れていきます。色が濃くなる、泡が消えにくくなる、嫌なにおいがする——これは油が酸化してきたサインです。酸化した油は味を悪くするだけでなく、胃もたれの原因にもなります。高齢者に提供する給食では、油の状態のチェックは味と健康の両方に関わる仕事です。
- 使い終わったらろ過する……揚げカスを残すと油の傷みが早くなります。毎回こして、きれいな状態で保管します
- 差し油をする……減った分だけ新しい油を足すことで、状態を保ちながら使います
- 交換の見極め……色・泡・においで判断し、基準に従って交換します。「もったいない」で引っ張りすぎないことも大事です
そして油は値段の上下が激しい食材でもあります。無駄に傷ませないことは、原価管理の面でも効いてきます。おいしさ・健康・コスト、油の管理は三方向に効く裏方仕事です。
まとめ:揚げ物は「急がば回れ」のメニュー
- 一度にたくさん入れない。油の温度を落とさないことが仕上がりの分かれ目
- 揚げ色ではなく中心温度75℃以上・1分以上で確認し、記録する
- 衣付けは流れ作業、揚げ順と提供時間からの逆算で段取りする
- 高齢者施設では薄衣・揚げ浸し・あんかけで「揚げ物の日」を全員に届ける
- 油はろ過・差し油・交換の見極めで管理する。味と健康とコストに効く
揚げ物は手がかかるぶん、喜ばれ方も大きいメニューです。「今日の唐揚げおいしかったよ」の一言のために、今日も温度計を刺して確認しています。
大量調理の基本は大量調理のコツ、フライヤーなどの機械は給食の調理器具図鑑で紹介しています。同じ大量調理シリーズの大量炊飯のコツとたまご料理の大量調理、夏場の衛生は夏場の衛生対策もあわせてどうぞ。


